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社説・コラム

社説 米大統領選 世界見据えた政策聞きたい

 11月5日の米大統領選に向け、構図がようやく固まった。民主党は、撤退を表明した現職バイデン氏の後継候補として、ハリス副大統領を選んだ。対する共和党の候補は、返り咲きを狙うトランプ氏。無所属で弁護士のロバート・ケネディ・ジュニア氏は撤退して、トランプ氏支持を表明した。

 景気対策や深刻な分断といった内政面の課題はさまざまある。しかし日本に住む私たちが期待しているのは外交政策を巡る活発な論戦である。

 4年前の前回に比べ、国際情勢は桁違いに緊張感を増しているからだ。例えばロシアによるウクライナ侵攻。力による国境変更の試みで、断じて許されない。しかもプーチン大統領は核兵器の使用までちらつかせている。言語道断の振る舞いと言えよう。

 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃に代表されるように、中東情勢は不安定だ。アジアでは、中国が核兵器を含めた軍備増強を続けている。北朝鮮による挑発的行動も後を絶たない。

 日本を含め、欧州各国や米国の緊密な連携がなければ、各地の火種を消し去ることは難しい。核保有国の横暴を許していたのでは世界の安定は望めない。ましてや核兵器廃絶という被爆地の目指すゴールへの道も開けない。

 そんな重苦しい国際情勢だからこそ、米大統領への注目は高まる。安定した世界に向け、ハリス氏やトランプ氏は米国として何をするつもりなのか。日本や欧州各国に何を求めるのか。自身の考えを明確に示した上で、論戦を繰り広げてほしい。

 トランプ氏の姿勢には不安が付きまとう。大統領の任期中、国際協調に背を向け続けていたからだ。温暖化防止対策の国際的枠組みの「パリ協定」から抜け出るなどで、欧州各国との溝を深めた。イランに核兵器開発をさせないための「核合意」からも離脱するなど、中東の不安要素を拡大してしまった。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(現総書記)との会談は世界の耳目を集めた。しかしめぼしい成果はなかった。

 返り咲いたら、消極的な姿勢を示してきたウクライナ支援はどうするのか。万一打ち切るようなら、プーチン大統領を喜ばせることにもなりかねない。トランプ氏の政権復帰が、国際社会の混乱に拍車をかけないか懸念が深まる。

 さらに、被爆地のメディアとして強調しておかなければならないことがある。

 2009年から8年間のオバマ政権と21年からのバイデン政権は、「核兵器のない世界」を掲げていた。現職の米大統領として初めての広島訪問や、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催も、別の政権だったら実現できなかったかもしれない。

 ハリス氏には、そうした民主党の先人を手本にして「核なき世界」に向けた政策を打ち出してもらいたい。トランプ氏に刺激を与えることで核政策を巡る論戦も望まれる。原爆や放射線の被害に関する知識の乏しい人物は、米大統領にはふさわしくない。

(2024年8月27日朝刊掲載)

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