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連載・特集

緑地帯 ささぐちともこ 被爆ギターの響き、未来へ②

 私は中学生の頃、フォークギターを弾いていたが、コードを押さえ、ピック片手にただかき鳴らすだけだった。

 クラシックギターは、繊細かつ複雑だ。弦を指先で押さえながら、右手の指先と爪を使って丁寧に弦をはじいていく。楽譜の読めない私にとって、音符を追いながら指を動かすのは至難の業。いい音も出せない。

 広島ギター協会が主催する1泊2日のサマースクールに初めて参加した時には、ギター愛あふれる協会員たちが、次々と私の元にやってきて、爪の削り方や紙やすりでの磨き方を伝授してくれる。私も、ギター愛好家の仲間入りをした気分だ。

 1棟丸ごと貸し切ったその合宿所は、夜中の3時頃までギターの音が鳴り響き、やっと眠りに落ちた朝5時には誰かがギターを弾き始める音が聞こえた。

 その協会員の一人が、原爆に遭った古いギターを持っていると聞いたのは、その頃のことだ。お父さんに「大切にしてくれ」と託されたギターだが、もう使い物にならず、だが捨てるわけにもいかず、60年ほど押し入れの中にしまったままだという。それは「19世紀ギター」と呼ばれる、現代のギターより一回り小さい古楽器を手本に作られた品らしい。

 その時はさほど興味を持たなかったが、しばらくして定年退職後にギターショップをオープンした別の協会員が、そのギターを修復し、弾けるようになったと聞いた。なぜか私は、そのギターに会ってみたいと思った。(児童文学作家=広島市)

(2024年8月28日朝刊掲載)

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