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社説・コラム

社説 「辺野古」埋め立て本格化 国策強行では解決できない

 際限なき難工事が泥沼化するように思えてならない。

 政府が本格着手した沖縄県名護市辺野古の大浦湾の埋め立てである。政府はここに米軍新基地を建設するため、県の反対を押し切って前例のない工事に乗り出した。

 現場は「マヨネーズ状」の軟弱地盤が水面下90メートルまで広がっているとされる。だが、軟弱地盤の強化は世界でも水深70メートルまでしか実績がない。政府は7万本を超す、くいを70メートルまで打ち込めば大丈夫とするが、何か根拠があるのだろうか。地盤の追加調査もせずに、技術的に未確立の難工事を強行する政府の姿勢は不誠実としか感じられない。

 現時点でも総工費は当初見込みの3倍近い9300億円にまで増えている。工期は2030年代半ばまで延びている。時間も費用も今後さらに膨らむことが避けられまい。不等沈下などが起きれば、安定した運用すらできなくなる。工事の先行きに疑問の声が出てきているのも当然だ。

 辺野古の新基地建設は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先として浮上した。少女暴行という痛ましい事件に端を発した、普天間の返還合意からは既に28年が過ぎた。

 当初は5~7年がめどとされた返還が、これから先も10年以上、実現できないのはなぜか。政府は辺野古の工事を長引かせることで「世界一危険」と言われる普天間の返還を事実上先延ばししているようにさえ見える。

 沖縄県はもとより普天間と辺野古は別問題としてきた。普天間を先に返還させる議論が起きても良いはずだ。

 米国は反対するかもしれない。中国の脅威を強調する動きもあるだろう。しかし、軍事拠点や戦略は時代に応じて見直されていくものだ。少なくとも国土の0・6%に過ぎない沖縄に、在日米軍専用施設の7割が集中し続ける状況は是正するべきだ。

 前例はある。福岡市の米軍板付基地は、九州大構内への所属機墜落などを受けて高まった激しい反基地運動の末に1972年に返還された。朝鮮半島からベトナムまで、にらみを利かす極東の最重要基地だったのに、米国政府は反基地運動の高まりを懸念して受け入れたとされている。

 「辺野古移設が普天間返還の唯一の解決策」ではないのだ。思考が硬直化しているのは日本政府の方だろう。

 にもかかわらず、来年度の概算要求で、沖縄振興費を減額し、辺野古に反対する玉城デニー県政を露骨に「兵糧攻め」するような対応はいかがなものか。在沖縄米兵による2件の性的暴行事件の情報を外務省が沖縄県に伝えていなかったことも明らかになっている。言語道断の地元軽視は、少女暴行事件を経験した沖縄の痛みを忘れていると言われても仕方なかろう。

 日米安保条約も、政府の安保政策も、国民を守るためにある。その国民である沖縄の人たちの声に耳を貸さず、国策を押しつける政府のやり方は許されない。辺野古の工事を強行して「やってる感」を出すだけでは、沖縄の基地問題の根本解決にはならない。

(2024年9月2日朝刊掲載)

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