天風録 『戦争と感染症』
24年9月2日
旧制中学1年のとき、病魔に襲われ、右腕が動かなくなってしまう。夢見ていた作曲家の道は閉ざされた。それにもめげず科学の道に進んだ故小柴昌俊さんは、超新星ニュートリノの観測で2002年にノーベル物理学賞を受賞した▲小柴さんを襲ったのは「小児まひ」とも呼ばれるポリオ。国内では1960年まで猛威を振るったが、科学の進歩で下火となり、80年を最後に新たな患者は見つかっていない。とはいえ、世界のどこかにウイルスが残っている限り、油断はできない▲その一例がパレスチナ自治区ガザだろう。先月、25年ぶりにポリオ感染が確認された。放っておけば、ガザを攻撃し続けるイスラエルにも広がる恐れがあるという。ワクチン接種のため、一時休戦がきのう実現した▲ガザの住民にとっては、つかの間の安心に過ぎまい。医療インフラや衛生環境が著しく悪化し、他の感染症のリスクも高まっており健康や命が危機にさらされている。いつになれば、落ち着いた暮らしが戻るのだろう▲戦火の中では、ワクチンなど医療の恩恵を受けることも難しくなる。愚かしい限りだ。人間の英知を使って、戦争をしたがるウイルスを根絶できないものか。
(2024年9月2日朝刊掲載)
(2024年9月2日朝刊掲載)