海自呉地方隊創設70年 第5部 基地と地域 <4> 文化・スポーツ
24年9月1日
高い技術 子どもに指導
地域に貢献 伝統脈々と
「私の人生はどこを切っても空手」。海上自衛隊呉基地(呉市)の部隊に勤める鈴木隆徳さん(52)=吉浦新町=はほほ笑む。1996年に基地の空手道部を旗揚げした。自衛隊体育学校(東京)に、五輪候補選手の強化訓練の指導者として呼ばれるほどの実力と情熱を今、地域の子どもたちの育成に注いでいる。
ボランティアで
7月中旬の平日夜。呉市築地町の二川まちづくりセンターでの練習には子どもから大人まで8人が参加した。海上自衛隊第1体操から始まり、基本技の練習に移ると、鈴木さんの声が響いた。「残心まで意識して」「力が入り過ぎ。リラックス」
鈴木さんが子どもたちの指導を始めたのは2002年。09年には自分の道場「拳志舘からす小島」を開いた。「子どもたちが上達するのは自分の励み。ボランティアで地域の役に立ちたい。それが自衛隊のアピールにもなる」
海自で最も市民に親しまれているのが呉音楽隊だ。約1600席を有する呉信用金庫ホール(中央)でのファミリーコンサートやクリスマスコンサートは毎年、満席になる。今春の「呉みなと祭」のステージには雨の中、人だかりができた。
音楽隊が続ける活動の一つに市内の中学校の吹奏楽部への指導がある。7月にはクラリネットとトロンボーン、サックスの奏者が和庄中に出向いた。クラリネットの教室では生徒が「温かい息で吹くより、冷たい息でフーと吹く感じで」などの教えを熱心にメモ。部長の3年山口はる奈さん(15)は「演奏をイメージしやすかった。プロに教わる機会なんてめったになく、恵まれている」と喜んだ。
国内外で活動する芸術ユニット「明和電機」社長の土佐信道さん(57)も指導を受けた一人だ。片山中のブラスバンド部でティンパニを担当していた土佐さん。「部活で音楽隊の人にみっちり指導してもらった。今でも音楽をやっているのはあの経験のおかげ」と感謝する。
盛んな吹奏楽部
市教委によると義務教育学校を含む市立中25校のうち7割の18校に吹奏楽部がある。「これほど吹奏楽部があるのは珍しい」と話す市文化振興財団理事長の明神博さん(74)は、背景に戦前の呉海兵団の軍楽隊長を務めた故河合太郎さんの存在を指摘する。
河合さんは戦後も呉音楽隊を指導し、市内の学校も回ったという。明神さんは「音楽隊は学校での指導の伝統を脈々と受け継いでいる。災害支援などで自衛隊の存在感は増しているが、文化活動を通じた呉への貢献も大きい」と言う。
(2024年9月1日朝刊掲載)