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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第5部 基地と地域 <3> 市民として

地域溶け込み 進む定住

相次ぐ不祥事 不安の声も

 約1万人がエリア内で勤務する海上自衛隊呉地方隊。拠点の呉基地がある呉市には多くが住み、県外出身者が居を構えて根付くことも多い。機雷を除去する「掃海畑」を歩んだ細谷吉勝さん(86)=和庄=は香川県出身。「地域に恩を返したい」と、退職後は地域活動に積極的に携わる。

まちづくりの力

 47年前に自宅を購入した。呉が特別、暮らしやすいとは思わなかったが「家族が安心して生活できることで仕事に専念できた。私も家族も呉で育てられた」という。自治会の役員にと請われたときは「義を見てせざるは勇なきなり」と、ためらいなく引き受けた。

 近くの本通小でとんどを復活させたり、自治会で管理する公園で梅を育てたり。役員を退いた後は「おたすけ隊」を結成して、お年寄りの買い物を代行するなど困りごとの手助けをしている。

 海自などの退職者たち約670人が入る隊友会呉支部によると、呉で結婚したり、子育てをしたりした場合は定年退職後も住み着く人が多いという。中心部に平地が少ない呉では、1960年代以降に焼山地区で大規模団地の開発が進んだ。定住先に選んだ隊員は多い。

 熊本県出身の田中隆典さん(82)は実家に近い佐世保基地(長崎県)での勤務を希望していたが、長男が3歳になった45年前、同市焼山中央に家を買った。以前、制服姿で実家に帰った際に「税金ドロボー」と言われたことがあったが、呉では一度も言われなかったという。「市民と自衛隊のつながりが深いからでしょう」と振り返る。

 同支部事務局長の森本茂生さん(73)は「自衛隊員は何が必要かを見て考え、展開する力を組織で鍛えられている。まちづくりでも生かしてほしい」と期待する。

モラルに不信感

 市民として隊員が街に溶け込むのを歓迎する声がある一方で、「自衛隊員が増加する中、不祥事が相次いでいる。モラルの低下が心配」との意見も市内にはある。

 隊員による犯罪は後を絶たない。呉地方総監部によると、エリア内の隊員が県警などに逮捕された件数は2022年度は11件、23年度は12件。24年度も7月末までに1件あった。酔って抵抗できない状態の女性に乱暴したとして準強制性交罪で起訴されたり、飲酒運転で人身事故を起こしながら現場から立ち去ったとして自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)などの罪で起訴され有罪判決を受けたりと、悪質なケースもある。

 飲酒した隊員の車が絡む事故でけがをした男性は「その後も飲酒運転で処分されるケースがあった。順法意識はどうなっているのか」と不信感を募らせる。40代女性は以前、市内の居酒屋で複数の隊員が泥酔して大声で叫んだり、女性客にしつこく声をかけたりしているのを見たという。「怖いと思う人もいる。不安にならないよう指導を徹底してほしい」と願う。

(2024年8月31日朝刊掲載)

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