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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第5部 基地と地域 <2> 下支え

隊員 定年後は即戦力に

消費喚起 街の活気貢献も

 多くの艦船が泊まる海上自衛隊呉基地(呉市)の係船堀地区。潜水艦が並ぶSバースと平行する工場の岸壁に着岸した貨物船で、元海上自衛官の清水利信さん(54)が仕事に汗を流していた。「慣れないことが多い。気配りを欠かさないようにしている」と話す。

 航海員として艦船に乗っていた清水さんは昨年12月に定年退職した。江田島市に構えた自宅から通えて海自での経験を生かせる職場を探し、海運業の谷原商船(同)の関連会社に入社。海自の先輩で先に退職した松井博さん(59)に紹介されたのがきっかけだった。

 海自では同程度の大きさの艦船を数十人の乗員で動かしていた。他船とのメッセージ交換のための手旗信号などを担っていた清水さんは係留用のロープを触ることすらなかったという。現在乗っている貨物船の乗員は4人。「担う業務は多く、少しずつ覚えている」と表情を引き締める。

市が再就職支援

 呉地方隊のエリアには約1万人が勤務する。多くの隊員は民間企業より早く定年を迎える。呉市は「元隊員の確保は地域の労働力確保や人口維持につながる」とし、地元企業への再就職を支援する。

 2019年には市や呉地方総監部などによる連絡会議が発足。自衛官だけを対象にした合同企業説明を年1回実施している。同総監部によると、22年度の呉地区(江田島市の施設を含む)の定年退職者は127人。うち30人が呉市内で就職したという。

 谷原商船はこれまでに関連会社の従業員として約20人を雇用した。谷原繁社長(66)は「船の種類は違っても共通する部分は多い。内航海運業界は船員不足が深刻で、退職自衛官は即戦力として貴重な存在」と話す。

 中国化薬(呉市)は現在、運搬船の船員や工場の保守員として約20人の退職自衛官を雇用している。管理本部長兼総務管理部長の山口浩己さん(64)は「規律がしっかりしていて、頼もしい」と評価する。

「新部隊に期待」

 「自衛隊員は街の活気も支えている」と話すのは市中心部の商店街などでつくる、くれフレンドシップパートナーズの内野静男代表(78)。隊員や家族向けの優待カードを作るなどして消費喚起に注力する。内野代表は「日本製鉄の呉の製鉄所が昨年9月に閉鎖した。商売人にとって自衛隊の重要性はさらに増している」と話す。

 ただ、新型コロナウイルス禍以降、街に出る隊員は減っているという。隊員の常連客が多いという市中心部のある飲食店の女性店主は「来年3月には新たな部隊が呉にできる。期待している」と話す。

(2024年8月30日朝刊掲載)

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