原爆・平和関連書籍 この1年 過去 今こそ見つめ直す
24年8月30日
オッペンハイマーの素顔は/広島サミット 多角的に検証
96歳元広島市長 反戦の願い/一兵士として 体験を凝縮
広島、長崎への原爆投下から79年。この1年も原爆・平和関連の書籍が数多く出版された。核兵器廃絶に向け、改めて過去を見つめ直す書籍が目立つ。映画の原案となった評伝や小説、詩などさまざまな表現を通じて、現在に続く戦争と向き合う試みも続く。=敬称略(仁科裕成)
核開発の行方
広島市立中央図書館(中区)によると、昨年8月から今年7月までに出版された原爆・平和関連の書籍は少なくとも約80冊に上る。2024年3月、米アカデミー賞の7部門を受賞したクリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」が国内で公開され、米物理学者のロバート・オッペンハイマーへの注目が高まった。
カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン著、河辺俊彦訳、山崎詩郎監訳「オッペンハイマー」(早川書房、上中下巻)は映画のベースとなった評伝。「原爆の父」とたたえられるが、戦後、水爆開発に反対して公職を追放されるなどした科学者の生涯に迫る。本人による講演などを収録した、ロバート・オッペンハイマー著、美作太郎、矢島敬二訳「原子力は誰のものか」(中央公論新社)も刊行された。
一方、「日本の原爆開発」などを論じたのが、23年7月に刊行の伊藤憲二「励起」(みすず書房、上下巻)。岡山出身の仁科芳雄博士の生涯を追い、戦時下に軍事利用された科学者としての苦悩を伝える。
国際情勢と平和
G7広島サミットを考えるヒロシマ市民の会編「私たちの広島サミット」(日本機関紙出版センター)は、核兵器廃絶を目指して活動する31人が、被爆地で開催されたサミットを多角的に検証した。山本昭宏「変質する平和主義」(朝日新聞出版)は、1989年以降の日本の平和主義の認識の変化をたどる。三上智恵「戦雲」(集英社)は、弾薬庫など自衛隊の設備の増強が進められる南西諸島の実態を明らかにした。
世界の現状を伝える本も。岡真理、小山哲、藤原辰史「中学生から知りたいパレスチナのこと」(ミシマ社)は歴史を知り、議論する重要性を説く。アーティフ・アブー・サイフ著、中野真紀子訳「ガザ日記」(地平社)はパレスチナに生きる作家が経験した戦地の記録だ。
次世代へ継承
96歳の元広島市長、平岡敬は「君たちは平和をどう守るのか」(南々社)を出版。自身の生涯を振り返り、反戦への願いを込めたメッセージを送る。常石登志子「戦時下の恋文」(てらいんく)は、両親が交わした恋文によって戦時の様子や原爆の悲惨さを伝える。
上原昭彦「広島の復興と二葉会の軌跡」(南々社)は、被爆からの復興に貢献し、旧市民球場などの建設費を拠出した財界有志「二葉会」の歩みを追った。写真家吉田敬三の「被爆2世の肖像」(南山舎)は、全国を訪ねて被爆者の親を持つ子世代の表情を収めた。
高校生平和ゼミナール全国連絡センター編「核兵器と戦争のない世界をめざす高校生たち」(大月書店)は、被爆地などで平和を学ぶ高校生たちの50年にわたる活動の軌跡を紹介する。
多彩な表現で迫る
2024年が生誕100年、没後10年になる四国五郎。四国五郎著、四国光編「戦争詩」(藤原書店)は、遺品から見つかった原稿を書籍化した。一兵士として見た戦争を言葉とイラストに凝縮させている。23年に88歳で亡くなった大江健三郎は、広島と縁が深かった。「新装版 大江健三郎同時代論集2 ヒロシマの光」(岩波書店)には「ヒロシマ・ノート」や原民喜論などを収録した。
小林エリカ「女の子たち風船爆弾をつくる」(文芸春秋)は、少女たちの戦争体験を掘り起こし、詩的な表現の作品へと織り上げた。「無関心」という人間の恐ろしさを表出させたのが、マーティン・エイミス著、北田絵里子訳「関心領域」(早川書房)。アウシュビッツ強制収容所の所長とその家族を描いた同名映画の原作。鈴木比佐雄たちの編集によるアンソロジー「広島・長崎・沖縄からの永遠平和詩歌集」(コールサック社)は、詩人、歌人、俳人たち269人の作品をテーマごとにまとめ、平和への思いを発信する。
被爆者による証言
NPO法人ANT―Hiroshima「ヒロシマ、顔」は、被爆者6人の体験を写真と言葉でたどる。「チョンちゃんはいうときたいんよ」(日本機関紙出版センター)は、仏教大の学生たちが榎郷子さんから聞き取った内容を挿絵入りの本にした。
今年の8月6日には、被爆者の切明千枝子がこれまで詠んだ約1500首から500首を選歌して編んだ「切明千枝子歌集 ひろしまを想う」(佐藤優編、レタープレス)が出版された。
(2024年8月30日朝刊掲載)