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連載・特集

緑地帯 ささぐちともこ 被爆ギターの響き、未来へ⑤

 この被爆ギターにまつわる話を基に、事実を織り交ぜながら、短い作品を書き、広島市文化財団などが公募する「市民文芸」の児童文学部門に応募した。自信があったのだが、期待したような結果が得られず、授賞式後の講評会で「この話は20枚では書き切れないでしょ」と審査員に言われた。その通りだと思ったし、さすがに1人で書いていくことに限界を感じた。

 その前々回の講評会で、気になる審査員の方がいた。知的できりっとしながらも、笑顔が素敵(すてき)で、常に周りに気を配る温かい方だなという印象があった。児童文学作家の中澤晶子さんだ。思い切って手紙を送った。「私は本を出すのが夢、ぜひご指導願いたい」と。すると「ちょうど創作講座を始めることになったから、あなたもいらっしゃいよ」とのお返事。願ってもないタイミングだった。

 講座では、それぞれが書いてきた作品を読み上げ、みんなから意見を頂く。新鮮な体験だ。

しばらくして「本を出したいのなら、短編では無理。長編を書いてみてはどう?」と中澤さんから勧められた。「あなたならできる」と。

 短い作品ばかり書いてきた私にとって、長編は未知の世界だ。でも夢を叶(かな)えるには、書くしかない。それならば、被爆ギターの話だ! 世の人たちは、被爆ギターの存在すら知らない。いつも話題になるのは、被爆ピアノばかりではないか。その悔しさが、大きな原動力となった。(児童文学作家=広島市)

(2024年9月3日朝刊掲載)

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