社説 防衛力の強化 専守防衛の逸脱 認められぬ
24年9月5日
防衛省の2025年度予算の概算要求は、本年度当初を5874億円上回る8兆5045億円となった。政府は防衛力の抜本的強化を掲げ、27年度までの5年間に43兆円を投じる整備計画を決めている。それに従い、計画3年目で要求額を8兆円台に乗せた。
「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の関連費用に、9700億円を計上した。ミサイルの量産、配備などに加え、多数の人工衛星で目標を探知・追尾する「衛星コンステレーション」の構築を進める。運用体制の関連領域を宇宙にまで広げるものだ。
これらは先制攻撃につながる能力の向上に直結する。憲法9条に基づく平和国家の防衛力としてふさわしいのか、疑問が尽きない。
敵基地攻撃能力に使える国産の長射程ミサイルや、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の配備を1年前倒しする。音速の5倍以上で飛行し迎撃困難とされる「極超音速誘導弾」の開発や、ミサイル配備に必要な火薬庫の増設費用も組み込んでいる。
攻撃型無人機(ドローン)の導入も30億円かけて進める。南西諸島に配備される見通しで、自ら標的にぶつかって攻撃する「自爆型」を想定する。ロシアとウクライナの戦闘で戦況を変える威力が示された。将来的には兵器自身が敵を見分ける人工知能(AI)の搭載も検討する。
軍備拡張を続ける中国や北朝鮮を念頭に抑止力を誇示する狙いだが、その効果は見えない。むしろ、攻撃能力の強化が地域の緊張を招いている可能性が高い。国是である専守防衛の枠を踏み外していないか、精査が必要だ。
こうした中、防衛省・自衛隊は大きく変容する。陸海空3隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が本年度末に発足する。それに合わせて日米両政府は、自衛隊と在日米軍の指揮統制の統合強化を議論している。
これまで以上に米国の軍事戦略と一体化した場合、自衛隊の独立性が保てるだろうか。専守防衛が形骸化する懸念は拭えない。
呉市の日本製鉄の製鉄所跡地に、艦艇の配備や弾薬庫などの部隊の活動基盤を含む複合防衛拠点を整備する構想の調査費5億円も計上した。
一方、自衛隊はマンパワー不足が顕著だ。自衛官の定員の充足率は23年度末で90・4%。採用は低迷が続く。23年度の防衛費の使い残しは約1300億円に上る。最新鋭の装備を導入しても扱う人材が足りなければ話にならない。
岸田政権は、国会での徹底的な議論や国民への十分な説明を欠いたまま、安全保障政策を転換し、ろくに歯止めを設けずに防衛費を増やし続けた。防衛財源の一部を増税で賄うはずが、国民の反発を恐れて先送りを続ける。無責任と言わざるを得ない。
近く自民党、立憲民主党の与野党第1党の党首選が行われる。年内には新首相が衆院解散・総選挙に打って出る可能性もある。防衛増税の是非を含めた防衛力の在り方について、国民の声に耳を傾け、議論を深めてもらいたい。
(2024年9月5日朝刊掲載)
「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の関連費用に、9700億円を計上した。ミサイルの量産、配備などに加え、多数の人工衛星で目標を探知・追尾する「衛星コンステレーション」の構築を進める。運用体制の関連領域を宇宙にまで広げるものだ。
これらは先制攻撃につながる能力の向上に直結する。憲法9条に基づく平和国家の防衛力としてふさわしいのか、疑問が尽きない。
敵基地攻撃能力に使える国産の長射程ミサイルや、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の配備を1年前倒しする。音速の5倍以上で飛行し迎撃困難とされる「極超音速誘導弾」の開発や、ミサイル配備に必要な火薬庫の増設費用も組み込んでいる。
攻撃型無人機(ドローン)の導入も30億円かけて進める。南西諸島に配備される見通しで、自ら標的にぶつかって攻撃する「自爆型」を想定する。ロシアとウクライナの戦闘で戦況を変える威力が示された。将来的には兵器自身が敵を見分ける人工知能(AI)の搭載も検討する。
軍備拡張を続ける中国や北朝鮮を念頭に抑止力を誇示する狙いだが、その効果は見えない。むしろ、攻撃能力の強化が地域の緊張を招いている可能性が高い。国是である専守防衛の枠を踏み外していないか、精査が必要だ。
こうした中、防衛省・自衛隊は大きく変容する。陸海空3隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が本年度末に発足する。それに合わせて日米両政府は、自衛隊と在日米軍の指揮統制の統合強化を議論している。
これまで以上に米国の軍事戦略と一体化した場合、自衛隊の独立性が保てるだろうか。専守防衛が形骸化する懸念は拭えない。
呉市の日本製鉄の製鉄所跡地に、艦艇の配備や弾薬庫などの部隊の活動基盤を含む複合防衛拠点を整備する構想の調査費5億円も計上した。
一方、自衛隊はマンパワー不足が顕著だ。自衛官の定員の充足率は23年度末で90・4%。採用は低迷が続く。23年度の防衛費の使い残しは約1300億円に上る。最新鋭の装備を導入しても扱う人材が足りなければ話にならない。
岸田政権は、国会での徹底的な議論や国民への十分な説明を欠いたまま、安全保障政策を転換し、ろくに歯止めを設けずに防衛費を増やし続けた。防衛財源の一部を増税で賄うはずが、国民の反発を恐れて先送りを続ける。無責任と言わざるを得ない。
近く自民党、立憲民主党の与野党第1党の党首選が行われる。年内には新首相が衆院解散・総選挙に打って出る可能性もある。防衛増税の是非を含めた防衛力の在り方について、国民の声に耳を傾け、議論を深めてもらいたい。
(2024年9月5日朝刊掲載)