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社説・コラム

『潮流』 高石ともやさん

■論説委員 石丸賢

 紙面交換で職場に届いた8月分の地方紙各紙を読み比べ、気付いたことがある。

 〈二枚目スター〉〈映画界のレジェンド〉…。そんな見出し付きで、フランスの俳優アラン・ドロンさんの訃報記事が紙面をにぎわせた同じ日。それ以上に目立つ扱いで、1人の日本人について他界を伝えている新聞があった。

 82歳で亡くなったフォーク歌手の高石ともやさん。「受験生ブルース」「街」といったヒット曲を口ずさみ、しのんだ読者もいることだろう。

 活動拠点にした京都の地元紙、京都新聞は19日付夕刊の1面に高石さんの訃報、社会面には評伝も置いている。ドロンさんは訃報だけで、それも社会面にとどまる。

 古里のブロック紙、北海道新聞では、2人の訃報とも20日付朝刊の社会面に見えるが、トップ記事扱いは高石さん。悼む道民の声を拾った関連記事も添えている。

 テレビ出演を断り、芸能界とは距離を置いた。ギターの弾き語りスタイルで津々浦々を回り、広島県三良坂町(現三次市)では町の歌「みらさか」も作っている。反骨精神の息づく姿勢は、地方の人々にとって頼もしかったに違いない。

 マラソンを愛する市民ランナーとしても、各地を回り続けたことを忘れてはなるまい。鉄人レースの国内発祥で、鳥取県西部を巡る全日本トライアスロン皆生大会の初代王者でもある。

 「完走者はみんなヒーロー」が口癖だった。自作曲「自分をほめてやろう」は、流行語になった女子マラソンの五輪メダリスト有森裕子さんの言葉「自分で自分をほめたい」を生んだ。

 しみじみとする歌声と笑顔が忘れられない。

(2024年9月7日朝刊掲載)

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