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核禁条約 日本加盟への障壁とは 長崎でフォーラム 国際法・軍縮の専門家が議論

 米国が提供する「核の傘」が不可欠だとして、核兵器禁止条約に加盟しない被爆国日本。どうすれば加盟できるか。何が障害なのか―。条約を巡り多様な見解を持つ国際法や軍縮の専門家が討論するフォーラムが8月、長崎市であった。2030年までの条約加盟を政府に求める一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」(東京)の主催。議論のポイントを整理する。(宮野史康)

日米安保条約との整合性をどう見るか

 日米安全保障条約は、5条で米国の対日防衛義務を定める。これを「禁止条約加盟にとって障壁」とみなす考えがあるが、明治大の山田寿則兼任講師(国際法)は日米安保条約の条文に「核兵器で防衛する」とは明示していないと指摘。非核兵器による防衛協力であれば「禁止条約上の違反にならない」と語った。

 ただ、日米防衛協力指針(ガイドライン)は「核戦力」を明記。中国などの脅威を念頭に、日米は今年7月も、核戦力を含めた米国の戦力で日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」の強化に合意している。

 禁止条約推進の立場から「これらを変えていくことで禁止条約に参加する道が開ける」と山田氏は語るが、簡単でないことも確か。市民からも繰り返し発信すべき意見だろう。

国家はなぜ 核兵器を保有するのか

 日本が条約に参加する上での「最大かつ根本的な障害」として、長崎大の西田充教授(核軍縮・不拡散)は「安全保障の問題」を挙げた。中国や北朝鮮に核兵器を使わせず、日本を守るには「残念ながら核抑止は今のところ大事」と語る。

 その根底には、核兵器の脅威には核兵器で対抗して抑え込む、という強固な「パラダイム」(見方や考え方)があるとも西田氏は述べる。国連安全保障理事会の常任理事国は核保有5大国でもあり、核兵器は「国際政治の権力争いのパワーの源とされている」。

 パラダイムを変えるには、何が一歩となるだろうか。長崎大核兵器廃絶研究センターの河合公明教授(国際人道法)は、核兵器が使用される現実のリスクを指摘し、「核兵器の人道上の影響を含め、よりトータルな安全保障の議論を」と話す。

日本が条約に加盟したら 国際的にどんな影響及ぼすか

 一橋大大学院の秋山信将教授(軍備管理・軍縮)は、日本の禁止条約加盟で国際情勢がどう変わるかを「精緻に議論するべきだ」と提起した。

 日本が加盟すれば、米国は核戦力による「拡大抑止」を提供することがなくなり、保有する核兵器も減らせるかもしれない。しかし「中ロも同様に核政策を変える、と確信を持って言える人がどれだけいるのか」。秋山氏は強調した。

    ◇

 フォーラムが開かれたのは長崎原爆の日の8月9日。学生や市民約40人が参加した。広島市立大の太田育子教授(国際法)は、市民と有志国により核兵器禁止条約が成立したことを評価しながらも「最終目標は、戦争自体を許容せず、廃絶することだ」と寄って立つべき原点を説いた。

 同キャンペーン事務局の浅野英男さん(27)は「多様な論点を整理し、市民社会の側から今後も議論を深めていきたい」と話す。

核兵器禁止条約
 核兵器の使用や保有などを全面的に違法とした初の国際条約。前文で被爆者の苦しみに言及。オーストリアやメキシコなどの非核保有国が制定を主導し2017年7月に国連で採択された。批准が50カ国・地域に達し21年1月発効。現在は70カ国・地域に広がった。

(2024年9月10日朝刊掲載)

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