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長崎で被爆した自由律俳人 松尾あつゆき 創作の軌跡 信濃毎日新聞の連載を一冊に

 長崎で被爆し、妻と3人の子を奪われた悲しみや怒りを、自由律俳句に託した俳人松尾あつゆき(1904~83年)。創作の軌跡をたどった「いまぞ熾(さか)りつ」が信濃毎日新聞社(長野市)から刊行された。あつゆきが戦後の一時期を過ごした信州と長崎を結び、作品をひもときながら、人の心を動かす「小さな言葉」の力を伝えている。

 著者は信濃毎日新聞の上野啓祐記者(50)。一昨年6月~昨年4月の同紙連載を加筆した。

 〈なにもかもなくした手に四まいの爆死証明〉などの句で知られるあつゆきは49年、再婚した妻の故郷長野県へ移り、高校で教えながら11年余りを過ごした。54年の第五福竜丸の被曝(ひばく)を機に反核の思いを強め、58年「長野県原水爆被災者の会」(現同県原爆被害者の会)の初代会長に。被爆者援護運動に尽くした。晩年は長崎に戻り、「原爆句抄」を刊行した。

 本書は、そんなあつゆきの歩みを作品や日記、証言などからたどる。生い立ちや被爆体験にとどまらず、自由な表現が許されなかった戦中、「聖戦俳句」に否が唱えられなかった生身の人間としての側面にも触れる。

 題名は〈降伏のみことのり、妻を焼く火いまぞ熾りつ〉から取った。あつゆきが自らの手で妻を火葬するさなか「玉音放送」が流れた情景を詠んだ句だ。上野記者は「取材しながらあつゆきの胸の中にたぎる原爆への怒りや反核への情熱を感じた。彼が炎に託した言葉は、いまを生きるわれわれへのメッセージでもある」と語る。四六判、256ページ。1980円。(森田裕美)

(2024年9月16日朝刊掲載)

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