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社説・コラム

『書評』 郷土の本 近未来の戦争通し平和を訴える絵本

 詩人の内田麟太郎さんと広島市西区在住の画家nakaban(なかばん)さんが絵本「ひとのなみだ」を作った。非戦と平和の願いを込めて「近未来の戦争」を描いている。

 ロボットの兵隊が戦争へ行く世界で、僕は安心して暮らしていけるはずだった。倒した敵の数だけが報じられ、人々は勝利をたたえ合った。突然、見て見ぬふりをしていた戦争の本当の姿がテレビに映し出されて―。

 nakabanさんの油絵は、重苦しい空気や後ろめたさを伝えながらも、人間への信頼や生きる希望を感じさせる。若者たちが暗闇で空を見上げる場面は、自身が10年以上前に見た印象的な夢から着想を得たという。

 内田さんが絵本のテーマに戦争を選ぶのは初めて。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ自治区ガザへの攻撃が続く中、過去ではなく「今の戦争」と向き合った。内田さんは後書きに記す。「私たちのいまは、私たちに呼びかけている。敵か味方かという、単純な二分法を越え、国境なきにんげんになろうよと」。童心社、1760円。(渡辺敬子)

(2024年9月15日朝刊掲載)

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