×

社説・コラム

社説 公明党のトップ交代 「平和の党」の原点忘れるな

 きのう告示された公明党代表選で、石井啓一幹事長の無投票当選が決まった。2009年以来、党を率いていた山口那津男氏から15年ぶりに代表の座を引き継ぐ。

 山口氏はソフトな物腰で支持母体である創価学会の会員の人気も高く、竹入義勝氏に次ぐ長期間、トップを担ってきた。退任理由を「60代以下の世代で次の政治がつかさどられていくことは明白。バトンを譲るべきだと決断した」と述べた。他党が組織若返りに取り組む中、党としても刷新感を出したいのだろう。

 ただ、1964年の結党以来、代表選に複数が立ったことはなく、今回も立候補は石井氏1人だった。自民党の総裁選や立憲民主党の代表選で多くの立候補者が議論を戦わせているのに比べれば、候補者が内々で一本化される過程は盛り上がりも透明性も欠くのは否めない。

 石井氏は官僚出身の政策通で、堅実な手腕には定評がある。無投票当選が決まった後の記者会見では、自民党の派閥裏金問題を念頭に「政治への信頼を取り戻すことが必要だ。政治改革の先頭に立つ」と強調した。

 党が自民党と連立を組んで既に25年。「政治とカネ」の問題や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係などが噴出する連立相手に対し、しっかり「物申す」姿勢を示したことは評価できる。

 金看板である「平和の党」は色あせた感もある。この立て直しがとりわけ求められよう。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増など、自民党が強引に進めた安全保障政策の転換に対し、どれだけ歯止めになってきただろうか。殺傷武器の最たる存在である戦闘機の輸出を容認したことは、党の基本姿勢と大きく隔たっていると言わざるを得ない。

 山口氏は「日本は唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界をリードしなければならない」と述べてきた。核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を求め「それさえ拒否したままで、どうして核保有国と非保有国の橋渡しができるのか」と政府を批判したのはもっともだ。

 平和への取り組みは、現実離れした理想主義ではなく、地に足の着いたものと党は主張してきた。ならば石井氏はその具体的道筋を提示することで存在感を出すべきだ。

 長い与党暮らしで党所属議員の慢心も気になる。遠山清彦元衆院議員は貸金業法違反罪で有罪判決を受けた。与党という権力が判断を誤らせたとすれば反省が必要だ。

 前回22年の参院選比例代表の得票は、非拘束名簿式の導入以降で最低の618万票に沈んだ。23年の統一地方選では過去最多となる12人もの公認候補が落選している。党勢の衰退は、党の運営と支援者の思いに、どこかずれが生じているからではないのか。

 石井氏は「公明らしさを一段と高めていきたい」と抱負も述べている。ならば、まず目指すべきは「平和の党」の原点に立ち返ることだろう。党の金看板を忘れては、党勢回復などおぼつかない。

(2024年9月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ