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旅立つ少年少女が問う国家 「吹雪の星の子どもたち 翡翠の天の子どもたち」 山口泉さんが長編小説刊行

 長くヒロシマと関わり続け、現住する沖縄で評論活動にも力を注ぐ作家の山口泉さんが、長編小説「吹雪の星の子どもたち 翡翠(ひすい)の天の子どもたち」を世に送った。「子どもの涙に向き合えない国家や軍に、世界に存在する正当性はあるか」―。そんな根源的な問いを込めた大著だ。

 大人になるための壮大な旅を課せられている7人の少年少女が、出発の日に体験する試練を描く。真冬の夜のわずか十数時間の出来事が、全110章、約980ページにわたり驚くべき濃密さでつづられる。

 子どもたちは「体内脳」とは別に一人一人に割り当てられた「星外脳」に導かれ、「黄金のいのちの繭雲」に乗って宇宙へ旅立つ―。SF的ともいえる設定だが、取り巻く大人社会の描写には国家や官僚制、軍隊、政治運動などへの風刺がちりばめられ、思弁小説の趣が深い。

 子どもたちの言行に宿る友情や愛、勇気の原初の輝きにも魅了される。その輝きは、例えばパレスチナで子どもの命が奪われ続けていることの痛みを呼び覚ます。

 山口さんは1955年長野県生まれ。小説や評論を発表し、新聞・雑誌での同時代批評も手がけてきた。東京在住だった94年から、広島市を「原爆の日」前後に訪れて絵本「さだ子と千羽づる」の朗読会を重ねる。2013年から沖縄本島で暮らし、広島での朗読会は今年、コロナ禍を経て5年ぶりに再開がかなった。

 本書は2部構成で、第1部「吹雪の―」は84年初版の同名小説に加筆した決定稿。後編に当たる第2部「翡翠の―」は書き下ろしで、完結までに40年余りを要した。冒頭の献辞「盟友たちに―」は、社会の現状に対する山口さんの危機意識の深さを映す、連帯の呼びかけに違いない。

 発行はオーロラ自由アトリエ。5280円。(道面雅量)

(2024年9月24日朝刊掲載)

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