緑地帯 菅亮平 被爆再現人形とフィクション③
24年9月21日
ここで話題とする被爆再現人形とは、1991年から2017年まで原爆資料館で展示された、広島の被爆直後の灰燼(かいじん)に帰した都市の一角を再現したジオラマ内の成人女性と女子学生、男子を模したプラスチック製の等身大人形3体を指している。私自身も、小学校の修学旅行で1995年に広島を訪れた際にこれらの人形を目撃した。その衝撃は生々しい記憶として今も心に残っている。
本館入り口付近に設置された人形展示は、大規模なジオラマセットと劇的な照明効果を伴うことで、ダイナミックなスペクタクル性を有していた。炎を思わせる禍々(まがまが)しい赤いライトアップの中で、すすだらけで無残に破れた衣服の隙間から見える皮膚は焼けただれ垂れ下がっており、血は脚を伝って流れ落ちる。髪は無造作に乱れ、両手を前に突き出しながらうつろなまなざしでがれきの上を力なく歩くその姿には、来場者に強いインパクトを与える迫力があった。
それは、原爆資料館を訪れる修学旅行生をはじめとしたさまざまな来場者に対して、原子爆弾が人間や都市に与える甚大な破壊力のイメージをストレートに突き付け、その恐ろしさを直感的に知らしめる装置として、原子爆弾に対する人々の心象形成に影響を及ぼしてきたと考えられる。
2013年を境にして、この人形展示はその是非を巡って大論争を巻き起こし、世間の耳目を集めることになる。(美術作家、広島市立大講師=広島市)
(2024年9月21日朝刊掲載)
本館入り口付近に設置された人形展示は、大規模なジオラマセットと劇的な照明効果を伴うことで、ダイナミックなスペクタクル性を有していた。炎を思わせる禍々(まがまが)しい赤いライトアップの中で、すすだらけで無残に破れた衣服の隙間から見える皮膚は焼けただれ垂れ下がっており、血は脚を伝って流れ落ちる。髪は無造作に乱れ、両手を前に突き出しながらうつろなまなざしでがれきの上を力なく歩くその姿には、来場者に強いインパクトを与える迫力があった。
それは、原爆資料館を訪れる修学旅行生をはじめとしたさまざまな来場者に対して、原子爆弾が人間や都市に与える甚大な破壊力のイメージをストレートに突き付け、その恐ろしさを直感的に知らしめる装置として、原子爆弾に対する人々の心象形成に影響を及ぼしてきたと考えられる。
2013年を境にして、この人形展示はその是非を巡って大論争を巻き起こし、世間の耳目を集めることになる。(美術作家、広島市立大講師=広島市)
(2024年9月21日朝刊掲載)