「核なき世界 共通目標」 FMCT会合 首相が演説 成果文書明記
24年9月25日
岸田文雄首相は23日(日本時間24日)、米ニューヨークの国連本部で核兵器の原料生産を禁じる兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に向けたハイレベルの友好国(フレンズ)会合を開いた。演説で「今こそ交渉開始のための強い政治的な意志が必要だ」と強調。「核兵器のない世界」を国際社会の共通目標と明記した成果文書をまとめた。(ニューヨーク発 宮野史康)
核保有国の米英仏を含む先進7カ国(G7)や、ブラジル、オーストラリアなどの閣僚らが出席した。首相は演説で広島市中区の平和記念公園にある「平和の灯(ともしび)」を「被爆者の核兵器のない世界への願いの象徴」だと紹介。「その役割を終え、消灯される日が訪れるよう、核軍縮に向けた取り組みを前に進めていきたい」と続けた。
その手段として、1993年に米クリントン大統領(当時)が提唱したFMCTの重要性を強調。「世界的な核兵器数の減少傾向を維持していく枠組みだ」と訴えた。2026年の次回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、「NPT体制の維持・強化につながる」とも述べた。
成果文書はFMCTが核軍縮・不拡散に「大きく貢献する」とし、各国が即時の交渉開始へ緊密に協力すると確認した。発効までの暫定措置として、核物質生産の一時停止や製造施設の解体を歓迎する姿勢も盛り込んだ。
首相は会合で、米国の原爆投下から80年となる来年、被爆の惨禍を世界に発信する取り組みを強める考えも表明した。被爆者やその記憶を継ぐ若者を海外へ派遣。世界各国から被爆地広島、長崎両市への訪問も促すとした。
首相は23日午後(日本時間24日午前)、一連の訪米日程を終えて帰国の途に就き、政府専用機でニューヨークのケネディ国際空港を出発した。
米ニューヨークで開かれた兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始を目指す友好国(フレンズ)会合には、停滞する世界の核軍縮に再び光を当てる意義がある。主導した岸田文雄首相は冒頭、「私の核軍縮外交の総仕上げ」と語った。とはいえ始まったばかり。来月の首相退任後も条約実現の旗振り役を期待する。
FMCTには核兵器の原料となる高濃縮ウランやプルトニウムの生産を止め、核兵器の増加を不可能にする狙いがある。発効が、世界的な核軍縮の着実な一歩となるのは間違いない。
ただハードルは高い。1993年に米国が提唱したが、いまだ交渉すら始まっていない。既存の核物質を規制すべきか否かでの意見の対立が続いているためだ。今回の会合も岸田首相のほかに首脳の出席はなく、各国の政治指導者の関心の低さが浮き彫りになった。
そもそも首相が「創設メンバー」と呼ぶ国々には、核保有5大国のうち中国、ロシアの名前がない。5大国がそろわなければ核軍縮効果が発揮できないだろうFMCT。交渉開始を目指すフレンズは成果文書で「目標を前進させるために、各国やその他パートナーと協力する用意がある」と表明したが、具体策は見えない。
この3年間、時には外務省も引っ張ってきた首相の退任も気がかりだ。次の政権の熱量はいかほどか。「総仕上げ」が尻すぼみになっては困る。交渉開始に向けた岸田首相の役割は退任後も重みを増すことになる。(ニューヨーク宮野史康)
(2024年9月25日朝刊掲載)
核保有国の米英仏を含む先進7カ国(G7)や、ブラジル、オーストラリアなどの閣僚らが出席した。首相は演説で広島市中区の平和記念公園にある「平和の灯(ともしび)」を「被爆者の核兵器のない世界への願いの象徴」だと紹介。「その役割を終え、消灯される日が訪れるよう、核軍縮に向けた取り組みを前に進めていきたい」と続けた。
その手段として、1993年に米クリントン大統領(当時)が提唱したFMCTの重要性を強調。「世界的な核兵器数の減少傾向を維持していく枠組みだ」と訴えた。2026年の次回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、「NPT体制の維持・強化につながる」とも述べた。
成果文書はFMCTが核軍縮・不拡散に「大きく貢献する」とし、各国が即時の交渉開始へ緊密に協力すると確認した。発効までの暫定措置として、核物質生産の一時停止や製造施設の解体を歓迎する姿勢も盛り込んだ。
首相は会合で、米国の原爆投下から80年となる来年、被爆の惨禍を世界に発信する取り組みを強める考えも表明した。被爆者やその記憶を継ぐ若者を海外へ派遣。世界各国から被爆地広島、長崎両市への訪問も促すとした。
首相は23日午後(日本時間24日午前)、一連の訪米日程を終えて帰国の途に就き、政府専用機でニューヨークのケネディ国際空港を出発した。
FMCT会合 首相が演説【解説】条約実現へ退任後も旗振りを
米ニューヨークで開かれた兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始を目指す友好国(フレンズ)会合には、停滞する世界の核軍縮に再び光を当てる意義がある。主導した岸田文雄首相は冒頭、「私の核軍縮外交の総仕上げ」と語った。とはいえ始まったばかり。来月の首相退任後も条約実現の旗振り役を期待する。
FMCTには核兵器の原料となる高濃縮ウランやプルトニウムの生産を止め、核兵器の増加を不可能にする狙いがある。発効が、世界的な核軍縮の着実な一歩となるのは間違いない。
ただハードルは高い。1993年に米国が提唱したが、いまだ交渉すら始まっていない。既存の核物質を規制すべきか否かでの意見の対立が続いているためだ。今回の会合も岸田首相のほかに首脳の出席はなく、各国の政治指導者の関心の低さが浮き彫りになった。
そもそも首相が「創設メンバー」と呼ぶ国々には、核保有5大国のうち中国、ロシアの名前がない。5大国がそろわなければ核軍縮効果が発揮できないだろうFMCT。交渉開始を目指すフレンズは成果文書で「目標を前進させるために、各国やその他パートナーと協力する用意がある」と表明したが、具体策は見えない。
この3年間、時には外務省も引っ張ってきた首相の退任も気がかりだ。次の政権の熱量はいかほどか。「総仕上げ」が尻すぼみになっては困る。交渉開始に向けた岸田首相の役割は退任後も重みを増すことになる。(ニューヨーク宮野史康)
(2024年9月25日朝刊掲載)