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社説・コラム

天風録 『眠れる戦争遺跡』

 分けても分けても、シダがかぶさってくる。そんな宮島の山道を登り、2時間ほどかかって、たどり着いた。「厳島聴測照射所」。太平洋戦争中に呉軍港を狙う敵機の音を聞き取っていた防空施設だ。建物跡や聴音機の台座が残っていた―▲10年以上前に現地を取材した同僚の話である。当時でさえ、島民には知られていなかった。記憶や記録も乏しい、そうした埋もれた戦争遺跡はあちこちにあるはず。既に朽ち果ててはいないか、消失を危ぶんでしまう▲実際、市町村が把握する重要な戦争遺跡ですら、消えつつある。そんなニュースを昨日の本紙で読んだ。全国642遺跡の3割近くが取り壊しなどで原形をとどめていないそうだ。戦争の記憶に触れる機会も失われた▲保存に及び腰の国の姿勢が透けて見える。ならば自分たちで守ろうと近年、独自に全容を調査する自治体が出てきた。継承の重みを知っているのだろう。昨年の共同通信のまとめでは、島根や鳥取など10道県に上った▲あの戦争で、どんな役割を地域は担ったのか。埋もれたままでは、物言わぬ証人は消失しかねない。眠りから覚まし、貴重な証言を聞きたい。歴史に学ぶための時間は限られている。

(2024年9月25日朝刊掲載)

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