[識者談話] 周辺国の軍拡に懸念も/「核で武装」時代錯誤だ
24年9月26日
長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)
非核三原則の見直しは広島、長崎の体験を踏まえた日本の安全保障政策の大転換に当たる。国際情勢の緊迫に不安を感じている国民に存在をアピールしたいのかもしれないが、あまりに軽々しい発言に危機感を覚える。
首相候補の議論が対外的にもたらす影響は小さくない。日本が安全保障の名の下に防衛力を強めれば、周辺国にさらなる軍拡を正当化する理由を与えかねない。また核共有が核拡散防止条約(NPT)違反に当たる、と考える国も少なくない。日本が核共有に踏み込めば、ただでさえ難航しているNPTの議論に負の影響を与えるだろう。
今では全艦船から戦術核を撤去したとされる米国だが、いつ方針転換してくるかもしれない。日本の安全保障を本当に向上させるのか、との本質を欠いた議論を抵抗なく受け入れるのは危険だ。
日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)
歴代内閣は非核三原則を国是とし、保守政権であっても手を付けてこなかったのに、首相にならんとする政治家が、戦争被爆国の守り抜くべき指針を邪魔もの扱いし、軍事大国を目指そうとしている。戦後日本の平和政策を否定するもので、とてつもなく危険だ。
しかも今、国際社会は核兵器禁止条約の普及を図っている。非核化が求められているさなかに「核で武装する」と言うのか。時代錯誤も甚だしく、こんな発言をする人は政治家に値しない。
彼らはきっと、核兵器のことを何ら分かっていないのだ。こうした発言を国民が問題視しないのも、もはや大多数が戦争の狂気を知らないからだろう。被団協は非核三原則の法制化を訴え続けている。来年は被爆80年。今こそ被爆者の声に耳を傾け、広島、長崎で起きた惨禍を学んでほしい。
(2024年9月26日朝刊掲載)