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連載・特集

緑地帯 菅亮平 被爆再現人形とフィクション⑥

 原爆資料館の被爆再現人形の調査にあたっては、同館との協議を経て、2024年5月に3体とも借り受けられることになった。しかし、これら人形の製作の経緯は不明な点が多かった。

 人形は、ジオラマ展示の一部だったことから単なる展示模型と見ることができる一方で、精巧な「ひとがた」の造作物である点を踏まえると彫刻としても考えられる。私は人形の製作過程を明らかにするために、文化財保存修復の彫刻の専門家らと共に各種の検証を行った。

 硬質の樹脂製の本体は、既製のマネキンの胴体部を中心に、人体からかたどった四肢と手作業の成形による頭部をつなぎ合わせて作られたと考えられる。頭部には人毛と思(おぼ)しきウィッグをかぶせ、眼球はガラス製の精巧な義眼がはめ込まれている。熱傷の表現は、軟質の樹脂でただれた皮膚の質感を意識しながら薄いシート状のパーツを作り、本体にかぶせるように処置してある。衣類は古着を流用した可能性もあり、その破けやはだけ方と血や汚れの着色は、像本体とのバランスの中で細やかな調整がなされている。

 総じて精巧な一種の生き人形であるが、衣類に隠れた胴体部分では切断や接着の痕跡が残されており、「もの」としての性格があらわになる。文字通り中身が空洞の人形は、当然生身の人間とは全く異なる成り立ちであり、あくまで表層の造作に基づくフィクションとして構成されていることが分かる。(美術作家、広島市立大講師=広島市)

(2024年9月26日朝刊掲載)

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