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連載・特集

緑地帯 菅亮平 被爆再現人形とフィクション⑦

 原爆資料館の被爆再現人形の調査を進める過程において、私は写真スタジオに人形を運び入れ、高精細カメラでの撮影を通して詳細なデジタルアーカイブを作成した。

 白い背景紙の前に3体の人形を立たせ、対象の細部まで観察しうる客観的な記録撮影を淡々と進める一方で、暗幕を背景とした劇的な照明による人形の撮影へと作業は移行した。私は、原爆資料館の人形のジオラマ展示の資料写真を参照し、当時のライティングの再現を試みた。それは、ほぼ地面すれすれの低い位置に光源を設置し、人形を見上げる形で強い照明を当てることを意味しており、原子爆弾による猛火の演出である。

 そこで写し出されたのは、記録撮影によってあらわにされた人形の「もの」としてのありさまではなく、燃え盛る炎に包まれた風景を逃げまどう「ひと」の姿だった。私は、ライティングによって人形に本来与えられた恐怖と痛みの表出という機能を呼び起こし、そのフィクションの効果を検証するべく、シャッターを切り続けた。

 これらの白背景と黒背景の3体の全身像の写真は完全な同一構図で撮影されており、原爆の図丸木美術館での個展では、人形の原寸大スケールに印刷をして、それらを交互に比較して鑑賞できるよう展示を行った。

 写真は、ただ現実を写し出すものとしてあるのではなく、イメージの中でフィクションとしてのもう一つの現実を創り出すのである。(美術作家、広島市立大講師=広島市)

(2024年9月27日朝刊掲載)

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