緑地帯 菅亮平 被爆再現人形とフィクション⑧
24年9月30日
私は、イメージとフィクションの問題を絵画や写真、模型などを通して探究してきた。
戦争は想像を絶する圧倒的な暴力を人々にもたらす。そうした歴史の断絶と死の記憶を継承する上で、「事実」と「フィクション」はどのような関係性にあるのか。原爆の図丸木美術館で開催中の個展「Based on a True Story(実話に基づいて)」で発表した、原爆ドームの被爆当時の鋼材の色彩を「再現」した塗料による絵画作品と、原爆資料館に展示されていた被爆「再現」人形を撮影した写真作品。私にとってこれらの作品は、実話に基づくフィクションの産物を再定義する試みだった。
被爆再現人形は原爆資料館の一時代を担い、多くの問いを残して役目を終えた。人形展示が撤去された現在の原爆資料館の導入展示においては、模型とプロジェクションマッピングを用いた被爆の再現映像が導入されている。新しいテクノロジーとメディアがもたらす表現の可能性は模索され続ける。
美術を仕事としてきた私は、表現が持つ人の心を動かす力を信じたいと思う。しかし、表現はときに事実をねじ曲げ、真実を矮小(わいしょう)化させるリスクをはらんでいる。繰り返される戦争で多くの人間の血が流され続けるこの世界を、虚実の入り交じる混沌(こんとん)とした情報環境と共に生きる私たちにとって、被爆再現人形が残したフィクションの問いは終わることはない。(美術作家、広島市立大講師=広島市)=おわり
(2024年9月28日朝刊掲載)
戦争は想像を絶する圧倒的な暴力を人々にもたらす。そうした歴史の断絶と死の記憶を継承する上で、「事実」と「フィクション」はどのような関係性にあるのか。原爆の図丸木美術館で開催中の個展「Based on a True Story(実話に基づいて)」で発表した、原爆ドームの被爆当時の鋼材の色彩を「再現」した塗料による絵画作品と、原爆資料館に展示されていた被爆「再現」人形を撮影した写真作品。私にとってこれらの作品は、実話に基づくフィクションの産物を再定義する試みだった。
被爆再現人形は原爆資料館の一時代を担い、多くの問いを残して役目を終えた。人形展示が撤去された現在の原爆資料館の導入展示においては、模型とプロジェクションマッピングを用いた被爆の再現映像が導入されている。新しいテクノロジーとメディアがもたらす表現の可能性は模索され続ける。
美術を仕事としてきた私は、表現が持つ人の心を動かす力を信じたいと思う。しかし、表現はときに事実をねじ曲げ、真実を矮小(わいしょう)化させるリスクをはらんでいる。繰り返される戦争で多くの人間の血が流され続けるこの世界を、虚実の入り交じる混沌(こんとん)とした情報環境と共に生きる私たちにとって、被爆再現人形が残したフィクションの問いは終わることはない。(美術作家、広島市立大講師=広島市)=おわり
(2024年9月28日朝刊掲載)