×

ニュース

父の被爆体験を語り継ぐ 17年前に他界 パソコンに手記見つかる 安佐の向井さん 地域で活動へ決意

 広島市安佐北区安佐町鈴張の向井千恵美さん(65)が、17年前に75歳で他界した父、石井豊資徳(としのり)さんの被爆体験を地域で伝える取り組みを始めた。亡くなった直後に見つかった手記を、今年の広島原爆の日に鈴張小の教職員研修会で紹介。「今も忘れられない戦争の傷跡」としたためた父の思いをつなぐ。(金刺大五)

 豊資徳さんは国民学校高等科2年の13歳の時、国鉄の学徒動員で赴いた広島駅付近で被爆した。生前、家族に詳しく語ることはなかったという。手記は、晩年に使っていたパソコンに、日記とともに保存されていた。

 A4判で7ページ。「市内の中心辺りに太陽が落ちた」「爆風で20~30メートル吹き飛ばされた」などと惨状をつづる。一方で「これからの日本の行き先を見たい。ここで倒れてたまるか」と奮起。鈴張まで歩いて帰り家族と再会できた喜びも記す。

 「物静かで、これほどの思いを抱えて生きていたとは驚きだった」と向井さん。古里の田畑を守りながら養鶏やトラック運転手の仕事を懸命にこなした父の原点を見た気がしたという。「これは父の遺言みたいなもの」と大事にしてきた。

 原爆投下から79年。被爆者の老いが進む中、被爆2世としてできることを探していたという。思いを知った鈴張小の瀬良みづほ校長に招かれ、研修会で12人の教職員に語って聞かせた。瀬良校長は「子どもたちが平和への願いを強く持つことができるよう現場で生かしたい」と感謝する。

 鈴張女性会の会長を務める向井さん。「求めがあれば学校や集会所へ出向き、子どもや住民たちに話したい」。被爆80年の節目に向けて、決意を新たにしている。

(2024年9月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ