緑地帯 石原香絵 地域のフィルムは地域で守る①
24年10月1日
映画好きが高じて学生時代に東京都内の場末の映画館でアルバイトを始めた。初日から映写を教わり、映画フィルムという物質にすっかり魅了されたはいいが、当時の配給会社から届くボロボロのフィルムは取り扱いが難しく、突然切れて上映を中断するしかないこともあった。
映画館スタッフとして働いて数年が過ぎた頃、愛読していた映画雑誌の広告にふと目が留まった。米国のロチェスターというコダックの企業城下町に、古いフィルムの修復技術を教える専門学校があるらしい。
いまでこそ映画保存の専門家のような顔をしている筆者だが、当時はその学校を併設するジョージ・イーストマン博物館が米国を代表する映画資料の集積場所、いわゆる「フィルムアーカイブ」であることすら知らず、ただ憑(つ)かれたように願書を送ってしまった。
卒業後ずいぶん長い時間が過ぎたが、フィルムアーカイブ学の教科書として読み継がれてきた恩師パオロ・ケルキ・ウザイの「無声映画入門 調査、研究、キュレーターシップ」(美学出版)の邦訳出版が昨年ようやく実現した。映画を大切に守り残し、次世代に手渡すため、フィルムアーキビストと呼ばれる専門家たちが世界中で日夜努力を重ねていることは、意外と知られていない。 (いしはら・かえ NPO法人映画保存協会代表=東京都)
(2024年10月1日朝刊掲載)
映画館スタッフとして働いて数年が過ぎた頃、愛読していた映画雑誌の広告にふと目が留まった。米国のロチェスターというコダックの企業城下町に、古いフィルムの修復技術を教える専門学校があるらしい。
いまでこそ映画保存の専門家のような顔をしている筆者だが、当時はその学校を併設するジョージ・イーストマン博物館が米国を代表する映画資料の集積場所、いわゆる「フィルムアーカイブ」であることすら知らず、ただ憑(つ)かれたように願書を送ってしまった。
卒業後ずいぶん長い時間が過ぎたが、フィルムアーカイブ学の教科書として読み継がれてきた恩師パオロ・ケルキ・ウザイの「無声映画入門 調査、研究、キュレーターシップ」(美学出版)の邦訳出版が昨年ようやく実現した。映画を大切に守り残し、次世代に手渡すため、フィルムアーキビストと呼ばれる専門家たちが世界中で日夜努力を重ねていることは、意外と知られていない。 (いしはら・かえ NPO法人映画保存協会代表=東京都)
(2024年10月1日朝刊掲載)