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社説・コラム

社説 中東の戦火拡大 国際社会で報復を止めねば

 中東で軍事的な攻撃の応酬が激化している。おととい、イスラエル軍がレバノン南部への地上侵攻を発表。すぐさまイランはイスラエルに180発以上もの弾道ミサイルを発射した。

 4月に起きた初の対イスラエル直接攻撃に続くもので、イスラエルのネタニヤフ首相はさらなる報復を宣言した。両国の本格衝突は絶対に避けねばならない。報復が連鎖する状況を国際社会は一刻も早く食い止める必要がある。

 イランとイスラエルは中東の軍事大国である。イランは、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラやパレスチナのイスラム組織ハマスといった反イスラエル組織を支援する一方、イスラエルへの直接攻撃は基本的に避けてきた。「影の戦争」と呼ばれてきた均衡が崩れれば、中東情勢が一気に悪化しかねない。

 パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とハマスの戦闘が始まってから間もなく1年になる。イスラエルはハマスの掃討に一定の区切りをつけ、標的をヒズボラに移したとみられる。9月下旬にレバノンで空爆を本格化させていた。既に子どもを含め多くの死者が出ている。

 戦線拡大を続ける一方のイスラエルには自制を強く求める。ネタニヤフ首相には強硬姿勢が国内の支持を高めるという政治的な事情があるのだろうが、地上侵攻によって衝突が泥沼化する恐れがある。

 イラン側は、7月にハマスの最高指導者だったハニヤ氏が首都テヘランで暗殺された。イスラエルは関与を認めていないが、イランはイスラエルの仕業と断定。最高指導者ハメネイ師が報復を宣言したものの、ガザの停戦交渉を重視するため攻撃を急がなかった。しかしヒズボラの指導者ナスララ師も殺害され、レバノン南部への地上侵攻が始まったことで、攻撃に動かざるを得なくなったようだ。

 イスラエルの後ろ盾である米国の責任は重い。イランのミサイル攻撃を巡っても、バイデン大統領が「イスラエルを完全に支持する」と表明した。報復を助長するような発言は控えるべきだ。

 石破茂首相のきのうの発言には違和感が残った。イランのミサイル攻撃に関し「認められるものではない。厳しく非難したい」と述べたがイスラエルへの言及はなかった。

 イスラエルに甘い米国とイラン批判で足並みをそろえるだけでは、中東地域の信用は得られない。林芳正官房長官は、事態がさらに悪化しないよう「必要なあらゆる外交努力を行う決意だ」と強調した。ならばイスラエルへのけん制も忘れてはなるまい。

 米国が失ったイランとの対話チャンネルを日本は維持できている。イランはイスラエルが反撃しなければ「行動を終了する」と外相が表明するなど、紛争拡大を避けたい思いがある。こうした主張も一定に理解した上で、仲裁を検討するべきだ。

 何より、当事国の市民の生命と安全がこれ以上、脅かされてはならない。平和外交を旨とする日本が存在感を示す機会になるのではないか。

(2024年10月3日朝刊掲載)

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