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社説・コラム

天風録 『何ごともなかったかのように』

 昭和、平成、令和と変わっても、「戦後」という、もう一つの元号は続いている…。そんな感覚を呼び覚ますニュースだった。宮崎空港でおととい、埋もれていた不発弾が不意に爆発した▲元は旧日本海軍の飛行場で、敗戦間際には特攻隊の基地となった。相前後して、米軍による空襲が始まる。当時投下されたうちの1発が今回、なぜか目覚めたらしい。79年もの歳月を経てなお、土煙があれほど噴き上がる。兵器の威力はすさまじい▲前史を知る地元宮崎の反応は「驚天動地」というほどでない。市の地域防災計画にも不発弾の章がある。それでも爆発翌日に早々と、運航が再開するとは思いもしなかっただろう▲「利便性とのバランス」を考えた空港側の判断という。とはいえ爆発直前、90人余りを乗せた旅客機が近くを通っていた。巻き込まれなかったのは偶然も偶然、もっけの幸いでしかない。原因不明のまま何ごともなかったかのように旅立たせるとは▲宮崎の基地から飛び立った特攻隊員のうち約130人は戻ってこなかった。戦後は一人一人の命を尊ぶことが、かけがえのない初心となった。利便性と、はかりにかけるようなものとは思えないのだけれど。

(2024年10月4日朝刊掲載)

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