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社説・コラム

社説 ガザ戦闘1年 停戦を実現すべき時だ

 これ以上、パレスチナ自治区ガザでの人道的な危機を見過ごしてはならない。イスラエル軍と、イスラム組織ハマスとの戦闘が始まって、きょうで1年になる。

 イスラエル軍は執拗(しつよう)な空爆で住宅や病院、インフラを破壊し尽くした。しかも地区を封鎖し、支援物資の搬入を妨げる。市民の犠牲者は4万1千人を超え、大半が子どもや女性たちだ。劣悪なテント生活を強いられ、飢餓や感染症でも命を落としている。

 とりわけイスラエルに対して国際社会の批判が強いのは当然である。戦闘の発端がハマスによる越境攻撃にあるとはいえ、反撃は自衛の範囲をはるかに超えている。国連のグテレス事務総長が言う「人類の危機」に至る事態だ。

 自制を求める国際世論に逆らい、イスラエルのネタニヤフ政権は今月、隣国のレバノンへの地上侵攻を実行した。ハマスと共闘する親イラン民兵組織ヒズボラを討つためだ。後ろ盾の軍事大国イランとの全面衝突も危ぶまれる。強硬策一辺倒のやり口は到底、理解できない。中東の緊張をさらに高め、イスラエル自身も孤立を深めるだけだ。

 やりきれないのは、ネタニヤフ氏が自らの政治的な延命を最優先にする節があるからだ。戦火の拡大は、ハマスのテロを防げなかったとして、国民に責任を追及されるのをかわす狙いが透ける。ガザの再占領を訴える閣内の極右勢力への配慮もあるだろう。

 国民感情を踏まえ、戦闘の目標はハマスの壊滅と、テロで連れ去られた人質の奪還に定める。しかし、ハマスやヒズボラなど「抵抗の枢軸」と呼ばれる武装組織ネットワークとの戦闘は泥沼に陥るのが必至だ。憎しみの応酬を生み、テロの恐怖は余計に高まる。人質を無事に取り戻す機会をも遠ざけてしまう。

 現実を直視し、停戦の道を探る時ではないのか。ハマスも、ガザ市民が置かれた状況を考えれば歩み寄るべきだ。  停戦の実現に向けては、先進7カ国(G7)や、アラブ諸国が協力し、双方に粘り強く働きかける必要がある。困難なのは確かだが、産油国の多い中東の混乱がさらに増せば、経済や貿易への影響は計り知れない。それより何より目の前の人道危機を傍観し続けるわけにいかない。

 中でもイスラエルへの軍事支援を続ける米国は責任を自覚すべきだ。11月の大統領選もあり、ユダヤ系の有権者を意識して自制を求める声は弱々しい。マクロン仏大統領が先ごろ、ガザでの戦闘に使われる武器の供与停止を提案した。具体的でうなずける。これまで経済支援や人道面での援助に徹してきた日本も、外交や政治による解決を重ねて強く求めるべきだ。

 停戦後に目指す姿として、パレスチナ国家樹立とイスラエルとの「2国家共存」の理想を再確認することが大切だ。31年前のパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)で示された和平プロセスの枠組みは今なお、暴力の連鎖を避ける選択肢として有効だろう。決して諦めず、最大限の努力をすべき時だ。

(2024年10月7日朝刊掲載)

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