社説 石破首相の所信表明 物足りなさが拭えない
24年10月5日
物足りなさを感じた国民は多いのではないか。
石破茂首相がきのう初の所信表明演説に臨んだ。自民党派閥の裏金事件などで失った信頼の回復に向け、自身の覚悟や政治改革のフレームを示す絶好の機会だったはずだ。
首相は「国民の信頼を取り戻す」と繰り返したが、政治資金の在り方は「限りない透明性をもって国民に向けて公開することを確立する」と述べるにとどまった。
他党からは企業・団体献金や使途報告の必要がない政策活動費の廃止などの改革案が出ている。9日に衆院を解散する首相は、その前に有権者の判断材料をそろえるとしていたではないか。改革の具体策を早急に示すべきだ。
裏金を得た議員の処遇も焦点だ。所信表明では「問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と述べた。
共同通信社が石破内閣発足を受け実施した世論調査で、事件に関与した議員の公認を「理解できない」とする回答が75・6%に上った。それなのに身内だけで事を収め、議員に国会での説明を迫る気もないようだ。公認すれば事件を不問に付すのと同じだ。
事件の真相究明と政治資金規正法改正が不十分だったため岸田文雄前首相は退陣に追い込まれた。そのことを忘れているのではないか。
所信表明で語った政策は総裁選の公約をベースとした内容だが、日米地位協定改定などの持論は封印した。実現の見通しがつかないことを自覚するからだろう。経済政策は岸田政権の踏襲だ。総裁選中は前向きだった選択的夫婦別姓にも触れなかった。
石破カラーが薄くなる中で力が入ったのが地方創生である。首相が初代担当相を務め、思い入れも強い。地方重視の姿勢は評価したい。
政府が地方創生を掲げて10年。東京一極集中の流れは変えられなかった。背景にあるのは地方の社会・経済にはびこる男女格差や社会保障の不安だ。結婚や出産に二の足を踏むことにつながっている。
これらは自治体単位での取り組みが難しい。女性参画は「国民的議論を主導して制度改革」、社会保障は「柔軟な制度の再構築」を掲げた。いずれも急ぐ必要がある。
自治体に配る交付金を当初予算比で倍増するのは結構だが、どのような効果を見込むのかが判然としない。ばらまきにならぬよう、改めて地方の創意工夫を呼び起こす制度設計に努めたい。
岸田氏が繰り返し唱えた「核兵器のない世界」への言及はなく、地球規模の課題として「軍縮・不拡散」に触れただけだった点は見過ごせない。首相自身は、日本政府が背を向けてきた核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を「選択肢」としている。その点を盛り込んでもらいたかった。
石破内閣発足時の支持率50・7%は第2次安倍内閣以降で最も低い。首相の言う「国民の納得と共感」を得るには所信表明で欠いた具体策を国会論戦で示さねばなるまい。
(2024年10月5日朝刊掲載)
石破茂首相がきのう初の所信表明演説に臨んだ。自民党派閥の裏金事件などで失った信頼の回復に向け、自身の覚悟や政治改革のフレームを示す絶好の機会だったはずだ。
首相は「国民の信頼を取り戻す」と繰り返したが、政治資金の在り方は「限りない透明性をもって国民に向けて公開することを確立する」と述べるにとどまった。
他党からは企業・団体献金や使途報告の必要がない政策活動費の廃止などの改革案が出ている。9日に衆院を解散する首相は、その前に有権者の判断材料をそろえるとしていたではないか。改革の具体策を早急に示すべきだ。
裏金を得た議員の処遇も焦点だ。所信表明では「問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と述べた。
共同通信社が石破内閣発足を受け実施した世論調査で、事件に関与した議員の公認を「理解できない」とする回答が75・6%に上った。それなのに身内だけで事を収め、議員に国会での説明を迫る気もないようだ。公認すれば事件を不問に付すのと同じだ。
事件の真相究明と政治資金規正法改正が不十分だったため岸田文雄前首相は退陣に追い込まれた。そのことを忘れているのではないか。
所信表明で語った政策は総裁選の公約をベースとした内容だが、日米地位協定改定などの持論は封印した。実現の見通しがつかないことを自覚するからだろう。経済政策は岸田政権の踏襲だ。総裁選中は前向きだった選択的夫婦別姓にも触れなかった。
石破カラーが薄くなる中で力が入ったのが地方創生である。首相が初代担当相を務め、思い入れも強い。地方重視の姿勢は評価したい。
政府が地方創生を掲げて10年。東京一極集中の流れは変えられなかった。背景にあるのは地方の社会・経済にはびこる男女格差や社会保障の不安だ。結婚や出産に二の足を踏むことにつながっている。
これらは自治体単位での取り組みが難しい。女性参画は「国民的議論を主導して制度改革」、社会保障は「柔軟な制度の再構築」を掲げた。いずれも急ぐ必要がある。
自治体に配る交付金を当初予算比で倍増するのは結構だが、どのような効果を見込むのかが判然としない。ばらまきにならぬよう、改めて地方の創意工夫を呼び起こす制度設計に努めたい。
岸田氏が繰り返し唱えた「核兵器のない世界」への言及はなく、地球規模の課題として「軍縮・不拡散」に触れただけだった点は見過ごせない。首相自身は、日本政府が背を向けてきた核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を「選択肢」としている。その点を盛り込んでもらいたかった。
石破内閣発足時の支持率50・7%は第2次安倍内閣以降で最も低い。首相の言う「国民の納得と共感」を得るには所信表明で欠いた具体策を国会論戦で示さねばなるまい。
(2024年10月5日朝刊掲載)