緑地帯 石原香絵 地域のフィルムは地域で守る⑦
24年10月9日
映画上映の主流がフィルムからデジタルへと移行した時期に前後して、韓国、中国、台湾のフィルムアーカイブは軒並み最新設備を整え、目覚ましい発展を遂げた。東南アジアも例外ではない。タイ・フィルムアーカイブの若きディレクター、サンチャイ・チョーティロットセラニーは今春、タイ初となる国際フィルムアーカイブ連盟の年次会議を成功させたばかりだ。
筆者が初めてバンコク郊外のサラヤを訪れた2010年、フィルムアーカイブの敷地内はまだ閑散としていた。しかしその後、テーマパークのような映画博物館に加え、本格的な上映施設と収蔵庫が次々と完成した。ユネスコが欧米以外の国や地域の映画保存のレベルを底上げすべくまいた種が、今まさに花開いているのは感慨深い。気づいてみると、日本のフィルムアーカイブの現状はやや見劣りするようになった。
タイでは自国の映画の文化財登録も着々と進められているし、無声映画をライブ演奏とともに上映する映画祭も今夏で第8回を迎えた。日本からは無声映画伴奏の第一人者、柳下美恵さんが2度目の招待を受け、小津安二郎監督「生まれてはみたけれど」(1932年)などに彩りを添えた。1世紀前の無声映画をできる限りオリジナルに近いかたちによみがえらせて現代の観客に届けるには、復元素材の調達から映写速度の調整まで、実に手間がかかる。まさにフィルムアーキビストの腕の見せどころだろう。(NPO法人映画保存協会代表=東京都)
(2024年10月9日朝刊掲載)
筆者が初めてバンコク郊外のサラヤを訪れた2010年、フィルムアーカイブの敷地内はまだ閑散としていた。しかしその後、テーマパークのような映画博物館に加え、本格的な上映施設と収蔵庫が次々と完成した。ユネスコが欧米以外の国や地域の映画保存のレベルを底上げすべくまいた種が、今まさに花開いているのは感慨深い。気づいてみると、日本のフィルムアーカイブの現状はやや見劣りするようになった。
タイでは自国の映画の文化財登録も着々と進められているし、無声映画をライブ演奏とともに上映する映画祭も今夏で第8回を迎えた。日本からは無声映画伴奏の第一人者、柳下美恵さんが2度目の招待を受け、小津安二郎監督「生まれてはみたけれど」(1932年)などに彩りを添えた。1世紀前の無声映画をできる限りオリジナルに近いかたちによみがえらせて現代の観客に届けるには、復元素材の調達から映写速度の調整まで、実に手間がかかる。まさにフィルムアーキビストの腕の見せどころだろう。(NPO法人映画保存協会代表=東京都)
(2024年10月9日朝刊掲載)