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社説・コラム

社説 日本被団協に平和賞 「核兵器なき世界」への力に

 核兵器が再び使われることがあってはならない―。被爆者の訴えと行動が、ついに世界に通じた。

 被爆者の全国組織、日本被団協が今年のノーベル平和賞に選ばれた。日本では「非核三原則」などで1974年に受賞した佐藤栄作元首相以来となる。

 広島、長崎は来年、被爆80年を迎える。幾多の人が鬼籍に入り、被爆者の平均年齢が85歳を超す長い年月を経た。核の非人道性を訴えてきた地道な努力が世界に認められたことを心から喜びたい。

 日本被団協は56年8月に結成された。病苦と貧困と差別に直面した広島、長崎の被爆者が立ち上がるには被爆から11年もの月日を要している。

 「私たちの体験をとおして人類の危機を救おうという決意を誓い合った」結成宣言を胸に、被爆者の医療や生活の安定を求める一方、国内外で証言活動を続け、被爆の実情を伝えてきた。その積み重ねで世界に「ヒバクシャ」の言葉が知られるようになった。

 ノーベル賞委員会は、被爆の証言が核兵器の拡散と使用に緊急の警告を発し「幅広い反対運動を生み出して定着に貢献してきた」とたたえた。草の根運動である被団協の努力が、核兵器使用が道徳的に許されないという「核のタブー」確立に大きく貢献したという授賞理由は重い。

 核軍縮や核廃絶を訴える取り組みで85年には世界の医師でつくる核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、2017年に核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))がノーベル平和賞を受賞している。

 喜んでばかりはいられない。核兵器が再び使用される恐れはこれまでになく高まっている。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核兵器による威嚇を続け、北朝鮮は核開発を進める。イスラエルとイランの対立も深刻さを増している。

 被団協の受賞決定は、核廃絶に逆行する世界に警鐘を鳴らすものである。核廃絶の取り組みをこれまで以上に強めなくてはならない。

 受賞の知らせを受けた被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員が「核兵器は人類と共存できない。核廃絶に向け、日本政府は先頭に立ってほしい」と話したのはもっともだ。

 核軍縮や不拡散の礎であるはずの核拡散防止条約(NPT)の枠組みは停滞し、核兵器保有国に義務付けた核軍縮交渉が進む気配は全くない。核戦力の増強が進み、保有国や依存する国が核抑止論を強める現実に目を背けるわけにはいかない。

 「精神的原子の連鎖反応が物質的原子の連鎖反応に勝たねばならぬ」。日本被団協の初代代表委員で、反核運動を率いた広島大名誉教授の故・森滝市郎さんの言葉である。人間の心のつながりが核の連鎖に勝たねばならないという原点を忘れてはなるまい。

 被団協は21年に発効した核兵器禁止条約への日本の参加を求めてきた。だが政府がオブザーバー参加さえ拒む姿勢は許されまい。被団協の受賞決定を機に政府は核禁条約参加にかじを切るべきだ。

(2024年10月12日朝刊掲載)

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