天風録 『核と人類は共存できない』
24年10月12日
よっぽど、たまげたのだろう。地元広島の被爆者は、自分の頰をつねっていた。「日本被団協にノーベル平和賞」という大ニュースがきのう飛び込んできた▲被爆から半世紀、60年と節目のたび、受賞候補に名が浮かび、見送られていた。理由の一端をノーベル賞委員会の元事務局長が回顧録で明かしている。日本人は自国を世界大戦の犠牲者と見なす傾向が目立ち、アジアに対する加害者意識が薄い、と▲わだかまりが解けたわけではあるまい。「核のタブー」が脅かされる状況はこれ以上、見過ごせない…。危機感が委員会を駆り立てたらしい。ロシアのプーチン大統領が何度も核使用をちらつかせ、イスラエルはイランへの報復攻撃で核施設を標的に挙げている▲いら立ちは、あの世で見守る先人の方が強いのではないか。初代代表委員の森滝市郎広島大名誉教授をはじめ、核廃絶の運動や被爆者援護に尽くしてきた人々の顔が浮かぶ。そして、遺言も残せないまま命を奪われた広島と長崎の犠牲者たちである▲68年にわたる被団協の歩みの到達点は、森滝さんの信念に尽きる。「核と人類は共存できない」。手放しで喜びたい朗報なのに、重たくもある受賞である。
(2024年10月12日朝刊掲載)
(2024年10月12日朝刊掲載)