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緊急連載 被団協ノーベル平和賞 <下> 核なき未来へ 継承急務

地方組織 先細り続く

 日本被団協のノーベル平和賞受賞決定の反響が国内外に広がった12日。原爆資料館(広島市中区)で、核や平和について考える市民講座が市などの主催で始まった。

 約70人の受講者を前に、舟入高3年の岡田蓮さん(18)と森田嶺さん(18)は7月にスイス・ジュネーブであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会に参加し、世界の同世代と交流を深めた様子などを発表。被団協の受賞に刺激を受けた様子で、「平和な世界を目指すのに仲間がいないという心配はない」などと振り返った。

 ノルウェーのノーベル賞委員会は授賞理由で、被団協の長年にわたる活動をたたえた上で、こう言及した。「日本の新たな世代は被爆者の経験とメッセージを引き継いでいる。彼らは人類の平和な未来の前提条件である核のタブーを維持することに貢献している」。記憶の風化にあらがう被爆地の不断の営みも高く評価したのだ。

 市民講座で講師を務めた一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」(東京)の浅野英男さん(27)は「被爆者の思いをどう受け継ぐか、世界に危機感が広がっているからこその受賞になったのでは」と受け止める。被団協や平和団体の連絡会をベースに4月に発足。2030年までに日本が核兵器禁止条約に加盟するよう、政治家や市民への働きかけを重ねている。

 被爆者の平均年齢は85歳を超えた。日本被団協を構成する全国の都道府県組織は11団体が解散や休止。広島県内の地域組織も相次ぎ閉じている。原爆資料館で講話する市の被爆体験証言者も応募が減少。被爆者自身による活動が年々衰えるのは避けられない。

 日本被団協が12日に都内で開いた記者会見で、被爆者団体の置かれた状況を役員たちが問われた際、長年活動をサポートしてきた工藤雅子事務室長がたまらず訴えた。「被爆者は(戦争被害を国民が等しく我慢すべきだとする)受忍論と闘い、核兵器も戦争もない世界を目指してきた。その役割を被爆者だけに担わせていて、良いのでしょうか」

 被団協の平和賞受賞が発表された11日夜、広島市役所で記者会見した代表委員で広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(82)の横で喜びを分かち合う県内の高校の生徒3人がいた。核兵器廃絶を求める署名を全国で集めて国連へ届け、近年ノーベル平和賞候補となった高校生平和大使の27代目だ。

 うち、曽祖父が被爆した基町高2年甲斐なつきさん(17)は、活動の中で核兵器廃絶について「そんなことできるわけがない」という言葉をかけられたと明かした。「夢ではなく、現実のものと考えられるよう、私たちの思いを広めていきたい」。核兵器も戦争もない世界の実現は人類共通の目標―。被爆者を道しるべに、世界中の市民と共に進むべき未来を見据えた。(下高充生)

(2024年10月14日朝刊掲載)

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