社説 あすから新聞週間 事実掘り下げる役割重い
24年10月14日
新聞週間が15日始まる。折しも衆院選の公示日と重なった。自民党派閥の裏金事件に象徴される「政治とカネ」の問題を、最大の争点に押し上げたのは国民の怒りだ。
新聞を含めたメディアの役割の重さに改めて身が引き締まる。政治権力に対し、記者の取材で積み重ねた確かな事実(ファクト)を基に、悪いことを悪いと言う。そして国民とともに憤る。新聞の原点が問われている。
裏金事件を世に問う発端は政党機関紙「しんぶん赤旗」による調査報道だ。政治資金パーティーの収支報告書の不記載を報じた。これに基づく告発で東京地検特捜部が立件に動き、朝日新聞が裏金づくりの実態を先行して暴いた。政権与党の議員が集団で法律を逸脱した事実を示し、権力監視の役割を果たした。
本紙がこの5年間、展開してきた「政治とカネ」問題の報道も同じだ。2019年7月にあった参院選広島選挙区で初当選した自民党の河井案里氏の陣営を巡る疑惑は、まず週刊文春が報じた。本紙は河井克行元法相夫妻による大規模買収事件だけでなく、根底にある「金権政治」そのものを問題視し、掘り下げた。
買収資金の出どころを追い続け、いくつもの事実をスクープした。その一つが安倍政権の幹部4人が元法相に多額の現金を渡した疑惑を裏付けるメモの存在で、検察が押収していた。使途が公表されない政策活動費が原資だった可能性がある。内閣官房報償費(機密費)を含め政権中枢からもたらされた「裏金」が国政選挙で使われた疑いを繰り返し報じた。民主主義の根幹である選挙がゆがめられる構造を示した意義があろう。
自民党は30年前に政治改革を打ち出しながら、体質を変えられずに今に至る。金のかからぬ政治の実現に向け、粘り強く報道し続けるのは無論、他社のスクープに共鳴し、メディア全体で追及する機運もつくらねばならない。
報道し続ける役割の重さは、被爆者の全国組織、日本被団協が今年のノーベル平和賞を受賞すると決まったことでも再認識した。核兵器の非人道性を世界に知らしめたのは被爆者の証言だ。世界の為政者の道徳心に訴え、核兵器の使用をとどまらせる力となり、核兵器禁止条約という国際規範を生んだ。被爆者の声を紙面に刻み続ける意義はそこにある。
来年に被爆80年となる今も原爆平和報道の軸は事実の掘り下げにある。連載企画「ヒロシマの空白」は、米国が原爆を投下した街にいた一人一人の名前、暮らしを資料や写真、取材でたどり、多くの命が奪われた実態を詳述してきた。被爆の記憶と記録を伝える営みこそ、核廃絶に向けた私たちの原点である。
今年の新聞週間の代表標語は「流されない 私は読んで 考える」。読者の応募作だ。インターネットや交流サイト(SNS)にフェイクニュースや偏った情報が氾濫する。新聞は信頼に足る情報源であってほしいとの期待と危機感を標語に見た。事実の掘り下げに絶えず努めていく。
(2024年10月14日朝刊掲載)
新聞を含めたメディアの役割の重さに改めて身が引き締まる。政治権力に対し、記者の取材で積み重ねた確かな事実(ファクト)を基に、悪いことを悪いと言う。そして国民とともに憤る。新聞の原点が問われている。
裏金事件を世に問う発端は政党機関紙「しんぶん赤旗」による調査報道だ。政治資金パーティーの収支報告書の不記載を報じた。これに基づく告発で東京地検特捜部が立件に動き、朝日新聞が裏金づくりの実態を先行して暴いた。政権与党の議員が集団で法律を逸脱した事実を示し、権力監視の役割を果たした。
本紙がこの5年間、展開してきた「政治とカネ」問題の報道も同じだ。2019年7月にあった参院選広島選挙区で初当選した自民党の河井案里氏の陣営を巡る疑惑は、まず週刊文春が報じた。本紙は河井克行元法相夫妻による大規模買収事件だけでなく、根底にある「金権政治」そのものを問題視し、掘り下げた。
買収資金の出どころを追い続け、いくつもの事実をスクープした。その一つが安倍政権の幹部4人が元法相に多額の現金を渡した疑惑を裏付けるメモの存在で、検察が押収していた。使途が公表されない政策活動費が原資だった可能性がある。内閣官房報償費(機密費)を含め政権中枢からもたらされた「裏金」が国政選挙で使われた疑いを繰り返し報じた。民主主義の根幹である選挙がゆがめられる構造を示した意義があろう。
自民党は30年前に政治改革を打ち出しながら、体質を変えられずに今に至る。金のかからぬ政治の実現に向け、粘り強く報道し続けるのは無論、他社のスクープに共鳴し、メディア全体で追及する機運もつくらねばならない。
報道し続ける役割の重さは、被爆者の全国組織、日本被団協が今年のノーベル平和賞を受賞すると決まったことでも再認識した。核兵器の非人道性を世界に知らしめたのは被爆者の証言だ。世界の為政者の道徳心に訴え、核兵器の使用をとどまらせる力となり、核兵器禁止条約という国際規範を生んだ。被爆者の声を紙面に刻み続ける意義はそこにある。
来年に被爆80年となる今も原爆平和報道の軸は事実の掘り下げにある。連載企画「ヒロシマの空白」は、米国が原爆を投下した街にいた一人一人の名前、暮らしを資料や写真、取材でたどり、多くの命が奪われた実態を詳述してきた。被爆の記憶と記録を伝える営みこそ、核廃絶に向けた私たちの原点である。
今年の新聞週間の代表標語は「流されない 私は読んで 考える」。読者の応募作だ。インターネットや交流サイト(SNS)にフェイクニュースや偏った情報が氾濫する。新聞は信頼に足る情報源であってほしいとの期待と危機感を標語に見た。事実の掘り下げに絶えず努めていく。
(2024年10月14日朝刊掲載)