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森下洋子さん 勇気届ける舞 「くるみ割り人形」大阪で来月 核なき世界への思いも

 広島市中区出身のプリマバレリーナ森下洋子さんが団長を務める松山バレエ団(東京)は11月16日、「くるみ割り人形」全幕の大阪公演を開く。舞踊歴73年目を迎える森下さんは、少女クララを主演。「喜びや生きる勇気を届けたい」という思いを胸に、舞台に立つ。(桑島美帆)

 「白鳥の湖」「眠れる森の美女」と並ぶ、チャイコフスキー作曲の三大バレエ組曲。1892年にロシアで初演され、クララが夢の世界を旅しながら成長する物語は、各国で親しまれてきた。

 松山バレエ団は1982年の初公演以降、42年間森下さんが主演し、公私ともにパートナーの清水哲太郎さんが演出や台本を手がけてきた。「生と死」「別れ」「成長」などをテーマに据え、どんなことがあっても、前進し続けるひたむきな少女の姿を描く。

 先月下旬、公演会場となる大阪市のフェスティバルホールで、記者会見が開かれた。クララについて「夢と希望をたくさん持っている少女であり、強い意志がある女性」と語った森下さん。「観客が感動し『明日から自分も頑張ろう』と思う舞台を創り上げたい」と決意を述べた。

 3歳からバレエを始め、今でも毎日5、6時間のレッスンを欠かさない。「私にとってバレエは生きることであり、呼吸していること。周りの励ましや支えがあったからこそ、ずっと続けられた」と振り返る。

 常に身体表現の探求を欠かさず、「この肉体でクララの思いをどう表現するか、ずっと考えている。それが楽しいし、幸せ」とほほ笑む。

 生まれ育った広島市内で、幼少の頃から被爆者の苦しみを間近で目にしてきた。母方の祖母の故・山根晴代さんは爆心地近くで被爆し、左半身に大やけどを負った。顔や首、手に生々しいケロイドが残っていたが、恨み言や弱音は一切口にせず、「生きていることに感謝していた。強くて明るい人だった」という。

 ウクライナやパレスチナ自治区ガザをはじめ、世界各地で紛争や内戦が続いている。「戦争や核兵器のない世界を絶対につくっていかなければならない」。来年の被爆80年へ向け、踊りを通し、世界へ訴えていく。

平和賞 祖母・母に心の中で報告 日本被団協にノーベル賞

 11日、2024年のノーベル平和賞に日本被団協が決まった。改めて森下さんに話を聞いた。

 すぐに被爆者だった祖母や母に心の中で「ノーベル平和賞を頂けた。世界が認めてくださったのよ」と報告した。被爆者は大変な思いをしたし、いまだに苦しんでいる方がたくさんいる。ノーベル平和賞は、大きな勇気を与えたと思う。

 戦争になれば、必ず苦しむ人、悲しむ人が出る。(受賞を機に)世界中の人が「広島と長崎で、人類にとって絶対にあってはならないことが起きた」ということを心に刻んでいただきたい。広島の原爆資料館を訪れた米国の大統領をはじめ世界の代表者は、みんなが幸せになるために「戦争はいけない」と声を大にして言ってほしい。

<松山バレエ団「くるみ割り人形」全幕>
 11月16日午後3時開演。大阪市北区のフェスティバルホール。SS席1万7千円(3歳~小学6年は8千円)、S席1万4千円、A席9千円など。同チケットセンター☎06(6231)2221。12月8日に東京公演、20日に神奈川公演もある。事務局☎03(3408)6640。

(2024年10月18日朝刊掲載)

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