天風録 『広島じゃズ』
24年10月21日
童謡「むすんでひらいて」には数奇な歴史がある。作曲はフランスの思想家ルソー。日本に賛美歌として伝わり、戦時中は軍歌に。〽見わたせば寄せてくる 敵の大軍面白や~と歌われた▲優れたメロディーは、時代を超えて人の心を動かす。ただ、同じ曲が軍隊を鼓舞したかと思えば、幼児の手遊び歌としても普及する。音楽が世にどう広まるかは関わる人と環境で決まる▲「平和と音楽」を掲げる催し「広島じゃズ」が、この土日にあった。会場のひろしまゲートパークは原爆ドームのすぐ北隣。出演したミュージシャンは「特別な場所」で演奏する喜びや意義を口々に語っていた▲ピアニストでもある大林武司実行委員長によると、個が主体性を保ちつつ協調するジャズは、平和に必要な多様性につながる。観客も。出演者のファン、子ども連れ、老夫婦、外国人観光客、若者グループ…と多彩な顔ぶれが一様に、サックスの躍動に頰を緩め、ピアノの優しい調べに穏やかな顔を見せていた▲被爆者の団体がノーベル平和賞に選ばれた年に初開催が重なったことも縁深い。ジャズのスイングに乗せて自由に体を動かしながら、楽しく平和を願うイベントが根付くといい。
(2024年10月21日朝刊掲載)
(2024年10月21日朝刊掲載)