[地域から問う 2024衆院選] 核禁条約加盟 高まる声 被団協の平和賞 追い風に
24年10月26日
何の罪もない母が生後10カ月の娘の死に責任を感じていた。「『かわいそうなことをした。自分がやけどしていなかったら、乳を飲ますことができたのに』。母はそう言っていました」。広島市白島北町(現中区)の自宅で母や妹たちと被爆した瀧口秀隆さん(84)=安佐南区=が19日、原爆資料館(中区)で研修中の大学生たちに語った。
あの日、米軍が投下した原爆で母は背中に大やけどを負い、授乳できなくなった。栄養不足の妹弘子ちゃんは次第に弱り、8月22日に息を引き取った。写真は一枚もなく面影も追えない。「普通に生きてきたのに、どうしてこんなつらい目に遭わないといけないのか」。熱線を浴び皮膚移植を余儀なくされた自らの左腕も見せた。
会議にも不参加
一瞬であまたの市民を殺りくし、生きられるはずだった命をも奪う。戦争と核兵器のむごさについて被爆者が語る言葉に注目が集まっている。
衆院選公示直前の今月11日、日本被団協のノーベル平和賞受賞が発表された。ノーベル賞委員会は授賞理由で、身をもって体験を証言してきた被爆者により「核兵器使用は道徳的に許されないと烙印(らくいん)を押す力強い国際的な規範」としての「核のタブー」が確立されたと評した。
瀧口さんも「被爆者の訴えに、これまで以上に関心を持ってもらえる」と期待する。ただ、肝心の「唯一の戦争被爆国」をうたう日本政府にどれだけ届いているのか。
非核兵器保有国が主導し、日本被団協も証言や署名活動で後押しした核兵器禁止条約が2017年に制定され、21年に発効したが、日本政府は核保有国が加盟していないなどとしていまだ後ろ向きだ。過去2回の締約国会議にオブザーバー参加もしなかった。
「期待を裏切る」
23年に広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)は核軍縮に関する文書で、核兵器廃絶を掲げつつも核抑止を肯定した。日米両政府は24年7月、拡大抑止の強化で合意。石破茂首相は9月の自民党総裁選で「核共有」を「非核三原則に触れるものではない」とし、議論の必要性に言及した。
日本の非核政策が問われる中、日本被団協に平和賞が贈られる。市民団体「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂共同代表(30)は「受賞決定後、SNS(交流サイト)などで日本が核兵器禁止条約に入っていなかったと気付く人がたくさんいた」と、有権者の関心の高まりを指摘する。
二つの広島県被団協を含む広島の被爆者7団体は10月17日に市役所で会見し、「核兵器禁止条約に参加し、核保有国を誘導する役割を果たさなければ、期待を裏切る」と日本政府へ迫った。瀧口さんも未批准を憂い、推進へ「多くの小さな声を集めて世界のリーダーへ届けたい」と言う。
12月10日にノルウェー・オスロで平和賞の授賞式があり、被爆者の訴えを世界が聞く。核使用すら危ぶまれる情勢を反転し、廃絶へと進む好機に―。そのかじ取りを託す政権選択選挙は10月27日に投開票される。(下高充生)
(2024年10月26日朝刊掲載)
あの日、米軍が投下した原爆で母は背中に大やけどを負い、授乳できなくなった。栄養不足の妹弘子ちゃんは次第に弱り、8月22日に息を引き取った。写真は一枚もなく面影も追えない。「普通に生きてきたのに、どうしてこんなつらい目に遭わないといけないのか」。熱線を浴び皮膚移植を余儀なくされた自らの左腕も見せた。
会議にも不参加
一瞬であまたの市民を殺りくし、生きられるはずだった命をも奪う。戦争と核兵器のむごさについて被爆者が語る言葉に注目が集まっている。
衆院選公示直前の今月11日、日本被団協のノーベル平和賞受賞が発表された。ノーベル賞委員会は授賞理由で、身をもって体験を証言してきた被爆者により「核兵器使用は道徳的に許されないと烙印(らくいん)を押す力強い国際的な規範」としての「核のタブー」が確立されたと評した。
瀧口さんも「被爆者の訴えに、これまで以上に関心を持ってもらえる」と期待する。ただ、肝心の「唯一の戦争被爆国」をうたう日本政府にどれだけ届いているのか。
非核兵器保有国が主導し、日本被団協も証言や署名活動で後押しした核兵器禁止条約が2017年に制定され、21年に発効したが、日本政府は核保有国が加盟していないなどとしていまだ後ろ向きだ。過去2回の締約国会議にオブザーバー参加もしなかった。
「期待を裏切る」
23年に広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)は核軍縮に関する文書で、核兵器廃絶を掲げつつも核抑止を肯定した。日米両政府は24年7月、拡大抑止の強化で合意。石破茂首相は9月の自民党総裁選で「核共有」を「非核三原則に触れるものではない」とし、議論の必要性に言及した。
日本の非核政策が問われる中、日本被団協に平和賞が贈られる。市民団体「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂共同代表(30)は「受賞決定後、SNS(交流サイト)などで日本が核兵器禁止条約に入っていなかったと気付く人がたくさんいた」と、有権者の関心の高まりを指摘する。
二つの広島県被団協を含む広島の被爆者7団体は10月17日に市役所で会見し、「核兵器禁止条約に参加し、核保有国を誘導する役割を果たさなければ、期待を裏切る」と日本政府へ迫った。瀧口さんも未批准を憂い、推進へ「多くの小さな声を集めて世界のリーダーへ届けたい」と言う。
12月10日にノルウェー・オスロで平和賞の授賞式があり、被爆者の訴えを世界が聞く。核使用すら危ぶまれる情勢を反転し、廃絶へと進む好機に―。そのかじ取りを託す政権選択選挙は10月27日に投開票される。(下高充生)
(2024年10月26日朝刊掲載)