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社説・コラム

天風録 『一日一善』

 その広島の少女は79年前の8月5日の日記に書いた。転校してきた級友に勉強を教え、川遊びに行ったことを。「これからも一日一善と言ふことをまもらうと思ふ」。高等女学校1年の石崎睦子さんは翌朝、動員先の建物疎開現場に向かい戻らなかった▲原爆の犠牲になった少年少女にどんな明日があり得たか。日本被団協がノーベル平和賞に決まり、核の脅威への危機感を共有すべき今こそ思う。一日一日、何もせず過ごしていいか、と▲与党が惨敗した衆院選を勝ち抜いた議員たちも同じ気持ちでいてもらいたい。「政治とカネ」や政権枠組みの攻防に隠れがちだが、被爆国の国会として核兵器廃絶への努力は欠かせない▲日本政府が背を向けてきた核兵器禁止条約に、少なくともオブザーバー参加を求める勢力が大きく伸びた。続投を模索する石破茂首相はもう逃げ腰で済むまい。まして持論の「核共有」など唱える場合ではないはずだ▲一日一善の由来は仏教にあり、実行すべき善は六つと聞く。親切、言行一致、忍耐、努力、反省、修養―。激動の政界で与野党ともに必要な営みだろう。その中で忘れないでほしい。核なき世界に向け、きょう一善ができるかを。

(2024年10月30日朝刊掲載)

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