×

連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第6部 インタビュー <5> 大和ミュージアム館長 戸高一成氏(76)

市民との間に信頼関係

多様な意見に耳傾けて

  ―海上自衛隊と呉の関係をどう見ていますか。
 呉の海自は、明治時代にこの地に旧海軍が来てから途切れることなくつながる歴史の流れの一つで、自衛隊と市民の間に信頼関係があるのが特徴だ。海自の教育隊員たちが制服で歩く姿もまちに溶け込んでいる。

他にはない歴史

 造船産業なども旧海軍工廠(こうしょう)のあった地域に残る。同じ旧軍港都市でも米海軍が入ってきた横須賀や佐世保とは違って、呉は戦前のまちの雰囲気がある。明治時代につくられた都市の形を生かし、焼け野原から復活して産業都市になっていくドラマチックな歴史が見られるのも他にはない特色で、まちづくりに生かせる。

  ―海自は観光コンテンツにもなっていますね。
 艦艇ごとに違うカレーを街じゅうで食べられる取り組みは、食欲と知識欲を刺激する企画で面白い。大和ミュージアムもそうだが、多くの人に受け入れられるのは、そこに歴史的な背景を感じられ、呉に存在する必然性があるからだ。日本の防衛を担う組織のことを知る機会はなかなかない。海自としても、自衛隊を知ってもらう入り口になっている。

防災拠点に有効

  ―製鉄所跡地での防衛省の複合防衛拠点構想はまちを変えそうです。どう考えますか。
 製鉄所の跡地は、海軍工廠の敷地だった場所で歴史の継続性がある。南海トラフの巨大地震を考えたとき、防災拠点としても地理的に有効だ。市民も豪雨災害などでの自衛隊の活躍をありがたく思っている。より広い地域の防災の要として貢献できるのなら、呉に自衛隊が存在する意義も高まるのではないか。攻撃の標的になるという心配は放置せず、それをクリアする対応が必要だ。

  ―隊員の不祥事が絶えません。自衛隊に批判的な意見もあります。
 不祥事の一つ一つをうやむやにせず、組織として対処していくことは大切だ。ただ、個人の行為で組織全体を判断するのは違うと思っている。民主主義の社会の中で反対意見が存在するのは当然。これまでも自衛隊と呉は友好的な関係だったが、さまざまな意見にしっかり耳を傾けた上で、長年培ってきたまちと自衛隊との信頼関係を深めることが大切だ。(聞き手は衣川圭)

 ≪略歴≫宮崎市出身。昭和館(東京)の図書情報部長などを経て、2005年から現職。19年に「証言録『海軍反省会』」の編者として菊池寛賞を受賞。

 連載「海自呉地方隊創設70年」は終わります。

(2024年11月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ