海自呉地方隊創設70年 第6部 インタビュー <4> 元海上幕僚長 杉本正彦氏(72)
24年11月3日
呉は輸送・補給のハブ
防衛拠点の整備 合理的
―海上自衛隊呉地方隊や呉基地の特徴は何でしょうか。
旧海軍時代、呉には工廠(こうしょう)があり、装備品の製造、修繕ができる軍事拠点だった。現在も引き継いでいる呉市吉浦地区の貯油所は海自内でも規模が大きく、他の基地にはない設備だ。国内の唯一の輸送隊が配備されていることからも、呉はロジスティックの拠点と言っていい。輸送艦や潜水艦など艦種が多いのも特徴だ。旧海軍時代の名残ではないだろうか。
―来年3月には陸上自衛官も艦艇を運用する新部隊「海上輸送群」が呉に発足します。なぜ、呉基地に新編されるのでしょうか。
呉には輸送艦3隻があり、輸送のノウハウがある。近くに手本がある場所に編成するのは、ごく普通の考え方だ。実際、陸自隊員は呉で海自の輸送艦に乗って、船乗りとしての勉強をしている。
運搬の能力重要
―防衛省は呉基地近くの製鉄所跡地に複合防衛拠点を整備する構想を持っています。どう考えますか。
防衛力と、国の強靱化(きょうじんか)を図る取り組みの一環だろう。物流のハブ(拠点)としての役割が強いと見ている。海上輸送群も、車両や部隊が移動する場合、収容できる広い敷地がないとスムーズに運用できない。南西諸島へのアクセスも良く、輸送のノウハウがある呉基地の近くに整備するのは合理的だろう。
日本の周辺海域と海上交通路(シーレーン)を守るのが海自の大きな任務。島国である日本はミサイルを打ち込まれなくても、シーレーンを閉ざされたら石油や食料を運び入れることができずに干上がってしまう。護衛艦などの後方支援として、物資や人員を運ぶ能力は重要だ。
強化 攻撃抑止に
―複合防衛拠点の整備が実現すると、攻撃対象になるとの不安の声もあります。
今でも吉浦地区の貯油所や江田島市の在日米軍秋月弾薬庫などは安全保障上、重要な場所だ。拠点を整備することで防衛力の強化につながり、結果的に攻撃を抑止できると考えている。装備の修繕などで民間の仕事が増えるなどメリットもあるはずだ。そういった点を地元に説明していくことが大切だと思う。(聞き手は小林旦地)
≪略歴≫1974年、海上自衛隊入隊。呉地方総監や自衛艦隊司令官を歴任し、2010年から海上幕僚長。12年に退官。
(2024年11月3日朝刊掲載)