海自呉地方隊創設70年 第6部 インタビュー <3> 呉地区平和委員会事務局長 森芳郎氏(82)
24年11月2日
情報開示の姿勢後退
防衛費増 怖い前線基地化
―海上自衛隊をどう見ていますか。
一番に願うのは「開かれた組織」になること。この70年で活動の場が広がり任務の種類も増えた。外から見えにくくなり「国民と懸け離れた」存在になったと感じる。
基地の公開などには力を入れているが、隊に関する情報を開示する姿勢は後退している印象を受ける。この体質が相次いで明るみに出た不祥事の背景にあるのではないか。
誠意ある組織に
―これまでも情報開示を求めて活動をされています。
2008年に海自の特殊部隊「特別警備隊」(江田島市)の養成課程で、3等海曹の男性が15人相手の連続格闘で死亡した事件があった。防衛省や調査委員会の対応が釈然としなかったので、真相究明を求めたが納得できる回答はなかった。14年には呉基地を母港とする輸送艦おおすみと釣り船が大竹市沖で衝突し、釣り船に乗っていた2人が亡くなる事故が起きたが、この時も同様だった。
呉では歴代市長が「自衛隊との共存共栄」を訴え、街にも海自を歓迎する雰囲気はある。それは否定しない。ただ、不祥事の際の対応に誠意のない組織では、市民として不信感が募る。
標的になる危険
―呉基地の拠点性は高まっています。
前線基地化しないか心配している。護衛艦を事実上の空母に改修する動きや、来春には人員や装備を運ぶ「海上輸送群」の司令部も置かれる。防衛省が呉基地に近い製鉄所跡地に複合防衛拠点を整備する意向も示している。実現すれば、標的とならないか心配だ。それなのに整備案についての議論は尽くされず市民が置き去りになっている。
政府が打ち出した「5年間で43兆円」という防衛費の大幅な増額で、自衛隊の姿は今後、変わっていくだろう。安全保障に名を借りて、日本の国是である専守防衛から逸脱しないか注視しなければならない。
憲法9条に基づく平和国家の防衛力の在り方は、他の国の軍隊とは異なる。国民・市民の理解を得るためにも、自衛隊が果たすべき役割について、開かれた議論で検証し、反対意見や不安の声に耳を傾けながら考えていくべきだ。(聞き手は栾暁雨)
≪略歴≫呉市出身。元市交通局職員。長年、同局労組の書記長として労働問題に取り組んだ。市民団体「日鉄呉跡地問題を考える会」の共同代表も務める。
(2024年11月2日朝刊掲載)