×

ニュース

[被団協に寄せて ノーベル平和賞] 東京大名誉教授 西崎文子さん 核は絶対悪 信念貫く

今の政治家 思考停止に

  ≪日本被団協は国際平和ビューロー(IPB)から1985年のノーベル平和賞候補に推された。その後、核関連では核戦争防止国際医師会議(IPPNW)や核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))が賞を受けた。≫

 なぜ被団協ではないのかと、ずっと思っていました。核兵器が持つ意味を身をもって知り、苦悩を超えて廃絶の思想を世界に発信する先頭に立ってきました。もっと早く受賞できれば良かった。創設以来、骨身を削って頑張ってきた方々の喜ぶ顔を見たかった。でも、うれしい。被爆者が減っていく中、大きな励みになるでしょう。

 授与を決めたノルウェー・ノーベル賞委員会のフリードネス委員長は39歳。彼のような北欧の若手が被爆者運動の重みを理解している。こうした世代的、地理的な広がりが運動の成果を示しています。

 ≪学生の頃、父の知人だった現代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)から誘われ、被団協の活動を支えた。82年の第2回国連軍縮特別総会や、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世と面会した欧州遊説で通訳を担った。≫

 議論を重ね、論理を研ぎ澄ませていく被爆者は生き生きと輝いていました。思い通りにならない現実にぶつかりながら、核兵器が絶対悪の兵器であると揺るぎない信念を貫きました。なまじっかではない。寝食を共にし、通訳できるのは特権。私の生き方や考え方に影響し、核兵器は絶対悪という信念は私のものにもなっています。

 ≪被団協は核兵器廃絶とともに、原爆被害への国家補償を要求に掲げる。≫

 被爆者は、被爆体験だけを語ってきたのではない。国民が戦争被害を等しく我慢しなければならないという「受忍論」を否定したのです。国の戦争責任を問わないのは戦争を肯定するに等しく、国が原爆被害を補償してこそ再び被爆者をつくらないという誓いになると。豊かな議論と確かな主張を粘り強く展開してきました。

 ≪日本政府は核兵器廃絶を唱えながら、米国の「核の傘」に頼る政策を続けている。≫

 今の日本の政治指導者は戦後世代で、被爆体験に鈍感です。厳しい安全保障環境にとらわれて思考停止に陥り、核被害の恐ろしさへの想像力を欠く。首相や閣僚になれば、広島と長崎の原爆資料館に行ってほしい。

 なぜ核兵器廃絶に失敗してきたかという視点も重要。被爆者の努力が足りないというわけではなく、周りが被爆者の訴えを受け止めず、核抑止に頼る現状を肯定しています。核兵器はひどいという考えと核政策が結びついていない。

 運動の歴史から、この断絶を乗り越える知恵を見いだせます。運動資料を収集するNPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」の活動は意義深い。受賞が、支援を集めるきっかけになってほしい。(聞き手は宮野史康)

にしざき・ふみこ
 仙台市生まれ。米エール大大学院博士課程修了。1980~90年代に日本被団協の通訳として活動。成蹊大を経て東京大教授、2020年に名誉教授。専門は米国政治外交史。65歳。

(2024年11月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ