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<div style="font-size:106%;font-weight:bold;">国の「受忍論」にあらがう</div><br> 　<strong>≪被爆者に寄り添い、運動の歴史や記憶の継承について研究してきた。日本被団協へのノーベル平和賞授賞理由にあるように「被爆者の証言は『核のタブー』が破られかねない状況で大きな力を持つ」と考えるが、被爆者運動の核兵器廃絶の側面ばかり注目されるのが気になるという。≫</strong><br><br> 　被爆者は核兵器だけを問題にしてきたのではなく、原爆被害は戦争被害だと訴えてきました。今もウクライナやパレスチナ自治区ガザで空爆が続いています。原爆投下も含め、空爆は空から相手を虫けらのように殺す―。そんな、人間を人間と見なさない行為に抵抗してきたのが被爆者運動です。 <br><br> 　また、「核のタブー」として「使用」にのみ焦点が当たれば、ウラン採掘など製造過程で被害に遭う人々が見えなくなります。核兵器が使われなくても、ヒバクシャは生まれる。被爆者はそうした人間性を奪う行為を否定してきました。 <br><br> 　<strong>≪被団協は「なぜこのような被害がもたらされたのか」を明らかにし、１９８４年に運動の要となる文書「原爆被害者の基本要求」をまとめた。「ふたたび被爆者をつくらない」ため、核兵器廃絶と共に、「戦争という国の行為によってもたらされた」被害に対し「国家補償の原爆被害者援護法」を求める。≫</strong><br><br> 　ここでいう国家補償は戦争を起こした国に責任を認めさせ、同じ被害が起こらないようにすること。まさに山口仙二さん（２０１３年死去）の国連での訴えです。 <br><br> 　<strong>≪長崎の被爆者で日本被団協代表委員を務めた山口さんは８２年、国連軍縮特別総会で演説。最後に「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ウォー、ノーモア・ヒバクシャ」と訴えた。≫</strong><br><br> 　私が接してきた被爆者は、国が戦争被害を受忍せよと強いることにとても怒っていました。８０年代に被爆者運動が盛り上がったのは、国に「受忍論」を突き付けられたことが大きいと思います。 <br><br> 　<strong>≪８０年、当時の厚生相の諮問機関「原爆被爆者対策基本問題懇談会」は、被爆も含めた戦争被害は「国民がひとしく受忍しなければならない」と答申した。≫</strong><br><br> 　受忍論を乗り越えるため、被爆者たちは調査し、理論構築もした。被爆者運動のすごいところはどんな困難にぶつかっても核兵器廃絶と国家補償の旗を下げなかったことです。「戦争さえなければ」とか、峠三吉の言う「にんげんをかえせ」といった生身の人間としての原点があるからです。 <br><br> 　いま多くの人が被爆者に敬意を示します。日本で核共有が取り沙汰されても反対世論が多いのは、長きにわたる被爆者の訴えが浸透しているからでしょう。いわば被爆者運動の貯金です。私たちはこの貯金がなくならないよう理念を引き継いでいかなくてはいけません。 （聞き手は森田裕美） <br><br> <strong>なおの・あきこ</strong><br>　兵庫県出身。米カリフォルニア大大学院で社会学博士号。九州大、広島市立大広島平和研究所などを経て、２０２３年から京都大教授。５２歳。 <br><br> （２０２４年１１月１９日朝刊掲載）