[被団協に寄せて ノーベル平和賞] 広島大平和センター准教授 戸崎洋史さん 核使用の危機へ警告
24年11月20日
抑止論踏まえた議論を
≪核軍備管理や核戦略などの観点から安全保障を研究してきた。日本被団協の代表委員や広島県被団協の理事長を務めた故坪井直(すなお)さんたち被爆者の証言を聴くたび、自らの研究を自問してきた。≫
日本被団協結成から68年の長きにわたり、被爆者が自ら「核兵器は二度と使われてはならない」と国内外で訴えてこられたことに敬意を抱いています。被爆者の証言が持つ力は大きく、だからこそ「核のタブー」も続いてきたのでしょう。
しかし現在、ロシアのウクライナ侵攻などを背景に、核兵器使用のリスクは1962年のキューバ危機以降で最も高まっています。日本被団協へのノーベル平和賞授与決定は、そんな国際情勢への警鐘ではないでしょうか。
≪核兵器を巡る近年の国際情勢を見ると、核軍縮と不拡散の「礎石」とされる核拡散防止条約(NPT)再検討会議は2015年、22年と2回続けて決裂。米ロ間で唯一残る核軍縮合意の新戦略兵器削減条約(新START)の期限も26年に迫る。米国と覇権を争う中国も核弾頭数を増やすなど課題は山積する。≫
被爆者の訴えに反して、核軍縮は停滞したままです。この流れはただちには変わらないでしょう。例えば、中国やロシア、北朝鮮といった「権威主義勢力」は「核兵器は使われてはならない」といった規範より自国の目標を優先させます。こうした勢力が態度を変えない限り、日本を含め西側諸国も核抑止で対応せざるを得ないのが現状なのです。
≪核兵器を持ち、均衡を図ることで世界の安定が保たれるという「核抑止論」。被爆者はその脱却を求め、「核廃絶論」を訴えてきた。≫
核兵器廃絶には、核兵器は保有・使用すべきではないという「規範」のほかに、他国の廃絶への違反や攻撃を抑止できる「力」と、核兵器の保有・使用は自国のためにならないという「利益」の要素も必要です。特に「力」に関し、核兵器と抑止は不可分。廃絶に向けて具体策を検討するためには、抑止論を踏まえるのも大切です。
議論を進める上では、過去だけでなく、現在や未来への視点も重要です。平和教育や報道を見ても、被爆地ほど核問題を議論する都市はありません。被爆地の外に暮らす若者たちも巻き込みながら、これまで以上にさまざまな角度で核問題を議論していくことが、これからの被爆地に求められていると思います。(聞き手は小林可奈)
とさき・ひろふみ
鹿児島市出身。大阪大で博士号(国際公共政策)を取得。日本国際問題研究所で軍縮・科学技術センター所長などを歴任し、今年7月から広島大平和センター准教授。53歳。
(2024年11月20日朝刊掲載)