社説 G20首脳会議閉幕 機能不全 乗り越えられるか
24年11月21日
ブラジル・リオデジャネイロで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が2日間の日程を終えて閉幕した。
首脳宣言は最終日の討議を待たず初日に発表された。文言の調整が難航して採択できず、国際協調の体裁を保てなくなるのを避けたのだろう。
異例の経緯を反映するように、昨年の宣言に盛り込んだ「保護主義の阻止」や、核兵器の威嚇を伴いながらウクライナ侵攻を続けるロシアへの非難を明確に打ち出さず、物足りない内容となった。
背景には「米国第一」を掲げ大統領選を制したトランプ前大統領の存在がある。来年1月の返り咲きを前に、それぞれの思惑が交錯。機能不全ともいうべき状況に追い込まれていることを印象づけた。
日米欧と中ロ、新興・途上国「グローバルサウス」で構成するG20。今回のテーマは議長国ブラジルの意向が反映され、新興国や途上国が求める貧困や開発が中心だった。いずれも多国間の協調した対応が必要で、先進国に求められる役割が特に大きい。
トランプ氏は自国の利益を優先する。高関税を検討しており、自由貿易を阻害して企業活動を混乱させかねない。首脳宣言で保護主義への反対姿勢が後退したのは、「陰の主役」であるトランプ氏を過度に刺激しないよう配慮した可能性がある。
気候変動問題に一致団結して対処すると確認したが、トランプ氏は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再離脱する構えだ。そうなれば取り組みの停滞は避けられまい。地球規模の課題に米国を関与させ続ける必要がある。
ウクライナ情勢も早期終結を掲げるトランプ氏再登板を控え、新たな局面に入った。
ロシアが攻勢を強め、制圧地を広げる。北朝鮮兵も前線に投入。これに対しバイデン米大統領はウクライナへの軍事支援を急ぐ方針に転換し、射程の長いミサイルによるロシア領内攻撃も容認した。
反発したロシアは核の使用条件を拡大し、欧米をけん制する。到底看過できない。
こうした中、首脳宣言にはロシアを名指しする批判はなく、「人的被害や食料、エネルギー安全保障などへの悪影響を強調する」との指摘にとどまった。中ロの賛同を得るためとはいえ、内容に乏しい。討議でバイデン氏はウクライナ支援の継続を呼びかけたが、存在感の低下は否めない。
中東情勢を含め、世界が対立と分断に苦しむ中、G20首脳が集う意味を見詰め直したい。妥協点を見いだし、課題解決へ議論を主導する役割が一段と求められている。
その重要性は石破茂首相も閉幕後の記者会見で言及したが、行動の覚悟はどこまであるのか。もはや米国一辺倒の立場は取り得ない。国際協調のつなぎ役にかじを切るべきだ。トランプ氏に自制を求め、協議の場に引っ張ってくる。そうした独自の外交で存在感を示したい。
孤立主義に屈服し、トランプ氏に振り回されるだけでは危機を乗り越えられない。多国間の枠組みを維持し、生かす努力を重ねるしかない。
(2024年11月21日朝刊掲載)
首脳宣言は最終日の討議を待たず初日に発表された。文言の調整が難航して採択できず、国際協調の体裁を保てなくなるのを避けたのだろう。
異例の経緯を反映するように、昨年の宣言に盛り込んだ「保護主義の阻止」や、核兵器の威嚇を伴いながらウクライナ侵攻を続けるロシアへの非難を明確に打ち出さず、物足りない内容となった。
背景には「米国第一」を掲げ大統領選を制したトランプ前大統領の存在がある。来年1月の返り咲きを前に、それぞれの思惑が交錯。機能不全ともいうべき状況に追い込まれていることを印象づけた。
日米欧と中ロ、新興・途上国「グローバルサウス」で構成するG20。今回のテーマは議長国ブラジルの意向が反映され、新興国や途上国が求める貧困や開発が中心だった。いずれも多国間の協調した対応が必要で、先進国に求められる役割が特に大きい。
トランプ氏は自国の利益を優先する。高関税を検討しており、自由貿易を阻害して企業活動を混乱させかねない。首脳宣言で保護主義への反対姿勢が後退したのは、「陰の主役」であるトランプ氏を過度に刺激しないよう配慮した可能性がある。
気候変動問題に一致団結して対処すると確認したが、トランプ氏は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再離脱する構えだ。そうなれば取り組みの停滞は避けられまい。地球規模の課題に米国を関与させ続ける必要がある。
ウクライナ情勢も早期終結を掲げるトランプ氏再登板を控え、新たな局面に入った。
ロシアが攻勢を強め、制圧地を広げる。北朝鮮兵も前線に投入。これに対しバイデン米大統領はウクライナへの軍事支援を急ぐ方針に転換し、射程の長いミサイルによるロシア領内攻撃も容認した。
反発したロシアは核の使用条件を拡大し、欧米をけん制する。到底看過できない。
こうした中、首脳宣言にはロシアを名指しする批判はなく、「人的被害や食料、エネルギー安全保障などへの悪影響を強調する」との指摘にとどまった。中ロの賛同を得るためとはいえ、内容に乏しい。討議でバイデン氏はウクライナ支援の継続を呼びかけたが、存在感の低下は否めない。
中東情勢を含め、世界が対立と分断に苦しむ中、G20首脳が集う意味を見詰め直したい。妥協点を見いだし、課題解決へ議論を主導する役割が一段と求められている。
その重要性は石破茂首相も閉幕後の記者会見で言及したが、行動の覚悟はどこまであるのか。もはや米国一辺倒の立場は取り得ない。国際協調のつなぎ役にかじを切るべきだ。トランプ氏に自制を求め、協議の場に引っ張ってくる。そうした独自の外交で存在感を示したい。
孤立主義に屈服し、トランプ氏に振り回されるだけでは危機を乗り越えられない。多国間の枠組みを維持し、生かす努力を重ねるしかない。
(2024年11月21日朝刊掲載)