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[被団協に寄せて ノーベル平和賞] 元広島平和文化センター理事長 スティーブン・リーパーさん 原体験 米国民に響く

直接届ける試み もっと

  ≪2023年から米ジョージア州アトランタ市の自宅で暮らす。日本被団協のノーベル平和賞受賞決定のニュースは米国人の知人が教えてくれた。≫

 とてもうれしかったです。このタイミングでの受賞は適切だと思いました。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃など世界の争いは絶えず、核兵器使用の危機感は高まっています。今こそ被団協が世界に訴えている核兵器廃絶の意義を人々は考え、実行していくべきです。

 被団協の受賞は全米の大手テレビや新聞社が報じ、大半の米国民が「日本被団協」という言葉を初めて耳にしました。被爆者たちの活動に関心が集まりましたが、直後に米大統領選があり、残念ながら関心はすぐに移ってしまいました。

 ≪核超大国の次期大統領に自国第一主義を掲げるドナルド・トランプ氏が返り咲く。米国の平和活動家たちの間で、核兵器廃絶に逆行しかねない言動を不安視する声が出ているという。≫

 被団協の平和賞受賞がトランプ政権に与える影響はほとんどないでしょう。新政権の人事を見ると戦争を進めたがる傾向の強い人ばかりで、そもそもトランプ氏が力比べで物事を決める「戦争文化」を好む。私の周りで「核戦争を止めなければいけない」という声はさらに高まっています。

 ≪広島平和文化センターの理事長を務めていた07~10年に「全米原爆展」を開催。被爆者たちと米国各地の大学や教会を訪れ、証言活動を支えた。≫

 被爆者たちと最も深く関わった経験でした。今は亡き岡田恵美子さんや中西巌さんたちは癒えない悲しみ、苦しみを抱えながらも、批判したり攻撃したりするのではなく原体験を伝えました。それは米国民の心に響き、私自身、被爆者の力を初めて実感しました。

 今は高齢の被爆者が海外に出かけて証言するのは難しいかもしれません。それでも工夫しながら、一人でも多くの被爆者の声を直接届ける取り組みがもっと必要なのではないでしょうか。

 ≪米国に拠点を移してからも非政府組織(NGO)や若者たちと核を巡る問題について議論を交わしている。≫

 アトランタ市の大学で、学生たちと核軍縮を求めるグループをつくろうとしています。来年3月にある核兵器禁止条約の第3回締約国会議に合わせた国連への派遣や、広島訪問も予定。核兵器の危険性を認識し、廃絶のために行動を起こそうとしている米国の若者は多く、希望を感じます。

 日本被団協の初代代表委員だった故森滝市郎さんの「力の文明から愛の文明へ」という言葉を広めたいです。世界の為政者たちは価値観を転換させなければいけません。被爆者たちに協力してもらいながら、今後も米国側から核兵器廃絶のためのアプローチを進めます。(聞き手は新山京子)

Steven Leeper
 米イリノイ州出身。1984年に広島市に移住し、2007~13年に外国人として初めて広島平和文化センターの理事長を務めた。米国を拠点に平和教育や講演活動を続ける。77歳。

(2024年11月22日朝刊掲載)

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