[被団協に寄せて ノーベル平和賞] マーシャル諸島の元上院議員 アバッカ・アンジャイン・マディソンさん 核の不正義 声を大に
24年11月25日
世界の被害者と連帯を
≪米国が1954年3月に中部太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁でした水爆実験で放射性降下物「死の灰」を浴び、原水爆禁止運動に尽力した亡きジョン・アンジャインさんのめい。マグロ漁船第五福竜丸の被曝(ひばく)で日本でも反核機運が一層高まり、56年に日本被団協が結成された。≫
同じ放射線被害を受けた日本の被爆者たちの受賞にとても驚き、ニュースで見た被爆者が喜んでいる姿に感動しました。私の先祖が暮らしていたロンゲラップで被曝した住民や政府の友人たちも「朗報だ」と喜んでいます。
≪マーシャル諸島では46~58年、米国が67回もの核実験を重ねた。被曝したビキニ、ロンゲラップ環礁への帰還は進んでいない。マーシャル諸島の政府や住民は、核実験に伴う死の灰が降った地域を米国が過小評価し、十分に補償していないと訴える。≫
罪のない人々が健康を害され、土地や伝統文化、自由に生きる権利を失いました。移住者たちの子どもたちは「故郷の島」がもはや分かりません。私たちは今も核実験や強制的な移住と関連したがんなどの病気が増えていると疑っています。医療体制が弱いため国外への移住を余儀なくされる患者も。核実験の影響は続いているのです。
米国は機密だとして、汚染情報を十分に開示してきませんでした。まさに不正義。公式に謝罪して故郷の島を元通りにし、コミュニティーの構築を支援すべきです。
≪当時を知る核被害の証人はマーシャル諸島でも減っている。政府は子どもたちへの教育に力を入れ始めた。≫
日本の被爆者は原爆で人生を破壊されたにもかかわらず、揺るがず、勇敢に、核被害者が声を上げる意義を広めました。核兵器のもたらす不正義を世界中で声を大にして教えてきたのです。若い人たちに核の知識を教えなければならない。日本被団協には、マーシャル諸島の人々を含む世界の核被害者との連帯を期待します。
≪日本もマーシャル諸島も核兵器禁止条約に加盟していない。同国のハイネ大統領は3月の中国新聞の取材で、条約を支持するが、被害国にも環境修復などの義務を負わせている点を疑問視していると明かした。≫
日本被団協は禁止条約への賛同を広げるために、多大な努力をしています。受賞は条約推進の大きな後押しになるでしょう。マーシャル諸島政府もどのように条約に関わるか、あらゆる角度から最善の方法を探っています。(聞き手は下高充生)
Abacca Anjain―Maddison
ロンゲラップ環礁選出の元上院議員。日本原水協中心の原水爆禁止世界大会への参加などで来日し、母国の核被害を訴えてきた。現在は政府で働いている。57歳。
(2024年11月25日朝刊掲載)