[被団協に寄せて ノーベル平和賞] 長崎の被爆3世 林田光弘さん 核兵器の駄目さ 語る
24年11月24日
平和教育の成果 世界へ
≪2016~20年、核兵器を禁止し、廃絶する条約の締結を全ての国に迫る「ヒバクシャ国際署名」のキャンペーンリーダーを務め、日本被団協などと1370万筆を集めた。≫
単に署名を集めるだけでなく、なぜ条約が必要なのか、集会を開いたり、全国の被爆者団体を訪ねたりして意義を説明する貴重な経験をしました。特に署名の呼びかけ人の一人で被団協の代表委員を務めた岩佐幹三さん(20年に91歳で死去)からは多くを学んだ。被団協の歴史も知ってほしいと言われて。本を読んで気になったことを質問する大学のゼミのような時間を過ごしました。
≪長崎市で生まれ育ち、高校生平和大使に。10代から海外で活動し、核兵器廃絶を訴える被爆者の姿を間近で見てきた。≫
核兵器といえば、世界の人たちは「強さ」をイメージすると感じてきたし、今でも脅しとして使う国があります。そんな核兵器に対する価値観を変える機会に今回の受賞をしたい。どんなふうに人が亡くなり、生き残った被爆者がどんな苦労をしているのか。人間の視点で向き合う必要性を世界に訴えていかないと。
被爆者は戦争が起こった時、どちらの国が正しいかではなく、そこに住んで銃弾で命を奪われる市民の側に立ってきました。世界との向き合い方を教えてくれています。
≪核兵器のない世界へのアプローチとして、国民は戦争被害を等しく我慢しなければならないという「受忍論」を克服し、原爆被害へ国の償いを求める被団協の長年の闘いに着目する。≫
自然災害や感染症で被爆者が生まれたわけではないですよね。国が戦争と被爆の因果関係を認めるのなら、では、なぜ子どもを含む民間人を被爆させた米国が被爆者援護に一円も拠出しなくて良いのかという「違和感」につながる。
あえていえば、受忍論の克服とは、次の被爆地をつくることがどれだけ「面倒な」ことなのかという議論でしょう。核兵器を使うのが人類にとって良い選択肢なのか。一度使われれば多くの人が亡くなるのはもちろんだけど、補償の問題も含め多面的に核兵器の駄目さを語る必要があります。
≪ノーベル賞委員会は授賞理由の一つとして、被爆者から若い世代への記憶の継承の営みを挙げた。被団協の代表団ではただ一人の若者として、授賞式に臨む。≫
若者は核兵器の問題に無関心だといわれるけど全く悲観していません。広島、長崎の若者も、被爆地を訪れた修学旅行生も、被爆者たちが積み上げた平和教育の成果として、亡くなった一人一人の人生や生き残った被爆者の苦労を理解します。そんな若者は世界で見てもレアな存在で、すごい力があるのだと後押しするのが大切です。
核兵器の問題は被爆者だけでなく全ての人が当事者。授賞式参加を通じてそう伝えたいです。(聞き手は下高充生)
はやしだ・みつひろ
長崎で祖父が被爆。現在は、修学旅行生に体験を通じた平和学習を提供する一般社団法人ピース・エデュケーション・ラボ・ナガサキを運営。長崎市在住。32歳。
(2024年11月24日朝刊掲載)