緑地帯 武部好伸 「映画」事始め+広島④
24年11月30日
大阪は映画上映と興行の発祥地―。2016年10月、この出来事を中心に刊行した「大阪『映画』事始め」(彩流社)。本書によって発明王エジソンに直談判して購入した映写機ヴァイタスコープを使い、本邦初の映画上映を成し遂げた大阪商人、荒木和一に光を当てることができ、ぼくは大満足だった。
和一はその後、大阪で開催された第5回内国勧業博覧会で名を上げ、外資系保険会社の関西支部長として大阪経済界に貢献した。通天閣がそびえる「新世界」の名付け親でもある。
刊行後、和一の親族から相次いで連絡が入った。いずれも本書を紹介した新聞記事がきっかけだった。その中の一人、「私、孫なんです」と伝えてきたのが広島市の久保田良枝さん。サツマイモを新聞紙で包んでいた時、偶然、書評欄に祖父の写真を見つけたそうだ。そして暮れに京都おもちゃ映画ミュージアムで開かれた講演会に駆け付けてくれた。
戦後10年目、保険会社社員の和一の長男が赴任先の中国地方で広島出身の女性と結ばれ、久保田さんが生を授かった。父親の死後、広島で母親と一緒に暮らしてきた。ここに来てようやく〈広島コネクション〉が芽生えた。祖父の業績を調べていた久保田さんから未見資料をいろいろ提供してもらい、和一を知るお母さんにも生前に会わせてもらった。貴重な情報や証言の数々。目からうろこが落ちた。このあと、ぼくは未知の分野へ挑戦することになった。(作家・エッセイスト=大阪市)
(2024年11月30日朝刊掲載)
和一はその後、大阪で開催された第5回内国勧業博覧会で名を上げ、外資系保険会社の関西支部長として大阪経済界に貢献した。通天閣がそびえる「新世界」の名付け親でもある。
刊行後、和一の親族から相次いで連絡が入った。いずれも本書を紹介した新聞記事がきっかけだった。その中の一人、「私、孫なんです」と伝えてきたのが広島市の久保田良枝さん。サツマイモを新聞紙で包んでいた時、偶然、書評欄に祖父の写真を見つけたそうだ。そして暮れに京都おもちゃ映画ミュージアムで開かれた講演会に駆け付けてくれた。
戦後10年目、保険会社社員の和一の長男が赴任先の中国地方で広島出身の女性と結ばれ、久保田さんが生を授かった。父親の死後、広島で母親と一緒に暮らしてきた。ここに来てようやく〈広島コネクション〉が芽生えた。祖父の業績を調べていた久保田さんから未見資料をいろいろ提供してもらい、和一を知るお母さんにも生前に会わせてもらった。貴重な情報や証言の数々。目からうろこが落ちた。このあと、ぼくは未知の分野へ挑戦することになった。(作家・エッセイスト=大阪市)
(2024年11月30日朝刊掲載)