戦前期広島 前衛の息吹 広島県立美術館で「山路商」展
24年12月3日
広島市中区の広島県立美術館で「山路商-戦前期広島の前衛精神」展が開かれている。昭和の戦前、戦中期にシュールレアリスムなどの新たな芸術表現を広島の地で主導した画家、山路商(1903~44年)の足跡と時代背景をたどる。(道面雅量)
「コレクション・フォーカス」と銘打ち、2階展示室を使った収蔵作品展の一環ながら、他館や個人の所蔵品も合わせて展示。原爆による焼失などで現存作品の限られる山路の画業に、できる限りの接近を試みた意欲的な内容だ。
「ソビエット領事館の裏」(31年ごろ)は同館が寄贈を受け、修復して初公開する作品。山路が旧満州(中国東北部)の大連で取材、フォービスム風の荒々しい筆致で風景の情感を際立たせている。「広島風景」(38年)は、シュールレアリスムへの傾倒期を代表する佳品。画面上部を横切る枝に、人の腕がにゅっと伸びてきたような印象が宿る。
広島市街の東、比治山のふもとにあった山路のアトリエは、画家や詩人、演劇人らが集って芸術論を交わす場だったという。太平洋戦争が始まった1941年12月、山路は思想犯を取り締まる特別高等警察に検挙、半年余り勾留された。終戦を迎える前の44年、40歳で亡くなっている。
勾留を解かれた後の晩年は、写実を深めた作品が多い。「柿」(43年)はその一つだが、背景の空間がゆがんで見え、不穏さをたたえる。「軍都」広島の特高が警戒し、その健康を奪うことで根絶しようとした山路の「精神」が、消えうせず脈打っているように思える。
展示は2室に展開し、同時代の画家の作品や資料も含め70点。24日まで。9、16日は休館。
(2024年12月3日朝刊掲載)
「コレクション・フォーカス」と銘打ち、2階展示室を使った収蔵作品展の一環ながら、他館や個人の所蔵品も合わせて展示。原爆による焼失などで現存作品の限られる山路の画業に、できる限りの接近を試みた意欲的な内容だ。
「ソビエット領事館の裏」(31年ごろ)は同館が寄贈を受け、修復して初公開する作品。山路が旧満州(中国東北部)の大連で取材、フォービスム風の荒々しい筆致で風景の情感を際立たせている。「広島風景」(38年)は、シュールレアリスムへの傾倒期を代表する佳品。画面上部を横切る枝に、人の腕がにゅっと伸びてきたような印象が宿る。
広島市街の東、比治山のふもとにあった山路のアトリエは、画家や詩人、演劇人らが集って芸術論を交わす場だったという。太平洋戦争が始まった1941年12月、山路は思想犯を取り締まる特別高等警察に検挙、半年余り勾留された。終戦を迎える前の44年、40歳で亡くなっている。
勾留を解かれた後の晩年は、写実を深めた作品が多い。「柿」(43年)はその一つだが、背景の空間がゆがんで見え、不穏さをたたえる。「軍都」広島の特高が警戒し、その健康を奪うことで根絶しようとした山路の「精神」が、消えうせず脈打っているように思える。
展示は2室に展開し、同時代の画家の作品や資料も含め70点。24日まで。9、16日は休館。
(2024年12月3日朝刊掲載)